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「あなたについてのモノローグ」 佐々宝砂
「結局のところあなたについて書くほかはないのだ。」
なにげなく放り出されたような言葉が妙に引っかかる。ごく当たり前の、むしろ陳腐な宣言ではないか。ノートの端、教科書の空白、あちらこちらに書き付けた(愛しいあなたに会いたい)(あなたしか見えない)(こんなに好きなのに)などといった甘ったるい言葉、青臭い言葉達の総集編のような宣言。
加えて選択肢は常に複数あるのだともいう。先カンブリアの奇怪な生物たちが進化していく道筋が無数にあったのに、目の前にある世界はどうだろうか。アノマノカリスはどこにいる?ハルキゲニアは?結局、私の前にいるのは「あなた」だけなのだと。
この作品には星もなく、月もなく、花もなく、シャンデリアも、虫たちも、妖怪もいない。もちろんバージェスの役者達もいない。まさにモノローグとしての宣言があるだけだ。佐々宝砂が意味を憑依させる単語達を全て消し去って、仮面を外した言葉だけが宣言を投げ出している。
普通だなぁと思う。それは常識的という意味ではなくて、よく見かける風景という意味での普通だ。演じられたなにかではなく、寝起きの顔だ。意表をつかれた質問につい本音を答えてしまった時の恥ずかしさすら感じさせる。でも、それを投げ出すことにどんな意味があるのだろうか。
いけない。その意味を問わせるのは罠だ。でも、その罠にはまってしまいたい衝動にもかられる。正気を取り戻せ。これは単なるメルヘンだ。夢見るポエムだ。そして寝言のように繰り返す、あたりまえの恋心なのだ。
(文中敬称略)
参考文献 仮想地下海の物語 佐々宝砂 ミッドナイトプレス刊