あなたについてのモノローグ
佐々宝砂

結局のところあなたについて書くほかはないのだ。
選択肢は常に目の前にぶらさがる。
埃だらけ蜘蛛の巣だらけのシャンデリアみたいに、
ぶらりぶらりと。
肝臓の色をした月に腎臓型の雲がつかみかかる。
あれも選択肢のひとつ。
だとしても、
私は月や雲についてではなく、
あなたについて語らねばならないのだ、と、
嘆くわけでもなく溜息をつけば、
睦月の水に張りゆくうすらい、
言ってはならない言葉がくちびるに浮かびかけるが、
ほ、と言い、
あ、と言い、
暗い氷のうえ見えぬ影として映る自分のくちもとに、
笑みを想像する。
選択肢は常に複数目の前にぶらさがる、
空に瞬く無数の星のように、
無数に、
あらゆる蓋然性、
あらゆる必然、
あらゆる偶然、
自然天然のすべては私のまえで選択肢として立ち現れ、
それでも、
私はあなたについて書くほかはないのだ。
月ではない、
虫ではない、
シャンデリアではない、
もちろん星ではありえない、
地上に生きる小さな生物としてのあなたを。


自由詩 あなたについてのモノローグ Copyright 佐々宝砂 2008-01-26 02:23:32
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