大切な人
yoshi

しわしわの手を握り締めて眠ったあの頃

ばあちゃんのぬくもりを探して足をばたつかせた布団の中

夏休みの宿題を昼ドラを見ているばあちゃんの横で

ぶつぶつ文句を言いながらやった

チャンネル争いでいつも負かしてた

そんな事を思い出しながら高速道路を飛ばす

母からきた1通のメールを

何度も何度も読み返してみては

現実感が沸かずに苦しんだ

しばらくは

遠い思い出を思い浮かべては、現実に起こっていることを

消し去ろうと必死にもがいた

流れ去る景色の中に

いつか行った旅行先の風景が重なる


いつまでも元気でね、ばあちゃん


そう書いた作文を読んで聞かせた時の涙

若いばあちゃんでうらやましいなぁって、友達がうらやんでた事もあったのに

いつの間にかばあちゃんの体は、黒く犯されてしまっていた

鍵っ子になりかけた私を、一生懸命面倒を見てくれた

私の中で両親よりも近くて、両親よりも信頼していた人

なのに、悲しませた事もたくさんあった

それもすべて些細な事で


病床のばあちゃんを見たとき、遠く離れて暮らしていた私は

絶句してしまった

変わり果てた表情、どす黒い顔色、浴衣からのびる驚くほど細い腕、苦しそうな息

食べる事があんなに大好きだったのに、のどを通らないままの料理を目の前に

肩で息をするばあちゃん

そっと頬に触れ、暖かさを確かめる私

涙が止まらず、でもその涙が不安を掻き立てるのではと必死でこらえた

両親の名前はもう言えないらしかったのに、私の名前はきちんと言ってくれた

肩で息をするほど苦しそうなのに、食事は大丈夫か?気をつけなさいよと

私の心配をしている

小さくなってしまった肩に触れて、じゃあね、と別れたその数時間後

私は今来た途をまた逆戻りすることとなってしまった


ばあちゃんが天に召されてもうまる4年が経った

結婚式はばあちゃんの死んだ日の3ヵ月後に予定されていた

3ヵ月後、私は花嫁衣裳を着た

ばあちゃんが、死ぬほど楽しみにしてるよって言っていた私の結婚式

私も大好きなばあちゃんに一番見て欲しかった

そしてわがままを謝りたかったのに、ばあちゃんはもう戻らなかった


結婚式では、ばあちゃんの席を用意してもらった

だから、高砂の席から見る親族席はぽっかりと1席空いていた

キャンドルサービスの時にキャンドルの炎の先にばあちゃんの背中が見えた気がした

私はばあちゃんの暖かさを感じながら、キャンドルに火を灯した



自由詩 大切な人 Copyright yoshi 2008-01-21 20:13:41
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