離れる
木立 悟





望まれない音の色とかたちが
夜明けのほうから降りおりる
まぶたの上のまぶたのかたち
ほのかに目覚めをさえぎるかたち


響きのなかに子らの手があり
母の行方をさがしている
まばたきの音
握った指をひらく音


とどけることができず
しまったままでいる声に
ふいに混じり ふくらむもの
ひらき 握り
ひらく手のひら


肩から背 肩から背
跡を残して流れ去る
遠いはずのない 遠いしるし
午後の夢さえ 遠いしるし


雨が冷え
空ばかりが白い雪の日の
つづくことのないひと吹きの唱
はざまを駆けるひとつきりの唱


見えることの境にうっすらと立ち
見えないことを解き明かす笑み
離れて在ることをけして赦さず
なのに離れていこうとする笑み
夜に光る 花の足跡


こぼれ落ち 消え
なお音となる
いくつものいくつもの問いと応え
その音のためだけに生きはしまい
泣きはしまい
冬を去る背を
追いはしまい


忘れた風や数のむこうに
二月と三月のかたちがある
紅のうた 衣のうた
手のひらの白に やわらかく鳴る
















自由詩 離れる Copyright 木立 悟 2007-12-31 09:57:54
notebook Home 戻る  過去 未来