角砂糖
蒼木りん

昔の喫茶店のような 
雰囲気を味わいたくて
コーヒーには 角砂糖を入れたかった。

角砂糖を入れたガラス瓶も
胸が きゅっとする。

ミルクは まだ入れずに
昔、
どこの喫茶店でも使っていた
あの、白いカップに満たされたコーヒーに
角砂糖をスプーンにのせて 
少しずつ溶かす。


崩れてゆく。


小さな..

なんだろう?

それを
何かにすり替えている。



喫茶店の席は
窓際で、

高いところで、

街並みやら、ビルやら、
行き交う車やら、人やら、

頬杖ついて
ぼぅっと眺めている。

今日の気分は
ボーイさんだな。

ウェイトレスさんの反対だから、
ウェイターさんかな?

白いシャツに蝶タイの。

ニコリッともせず、
ウェイター様の表情で スラッと立っている。

思わず、

普段、どんな日常で、
どんなときに どんな顔で笑うのだろう。
彼女はどんな?
まで想像する。

まぁ、
美人のウェイトレスさんでも
同じこと思うけれど。


人がまばらで
欠伸が出そうな時間帯がいい。

なんとなくの 罪悪感と、
出来る事なら

ただ広くて
かすかな食器の音しかしない ここに
もうしばらく居たいという
変な 切なさ。

私は 
カサコソと 
バックの中から 携帯を取り出し、

昨日のメールをひらく。


『君とのセックスがきもちいい』


その行に
ふたたび 
吐息。


まるい灰皿に
煙草を挟み 

背もたれに身体をあずけると
世間の音が戻ってくる。

口にするコーヒーは
ぬるくて

もう一度、

角砂糖を
浸すために

熱いコーヒーを おかわりする。




散文(批評随筆小説等) 角砂糖 Copyright 蒼木りん 2004-06-19 01:01:52
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