夜の魚
亜樹

ふかいくらい うみのなか
ほそながい 魚がおよぐ
はがれおちた うすいうろこが
キラキラと かがやきながら
底のほうへと おちてゆく

目をつむると ズブズブと
体がしずんで しまうので
黄色い目を 見開いて
魚は尾っぽを はためかす
喝と 見開いた目玉は
それでも あたりが
あんまり あんまり
くらいので
ろくに何も うつさないまま
しずみたくない 魚はおよぐ

冷たいから 厭なのか
問えば そうではないという
底が見えぬのが 嫌なのか
聞けば そうではないという
底のほうは じつのところ
ほのかに 明るい
はがれおちた うろこがつもり
きらきらと ひかる
そのひかりが イヤだという

おまえは しらないのか
あれは 倦んでつかれた たましいだ
6畳半のへやで みどり児のために
老婆のつける 豆電のあかりだ
葬列に さんかする
みしらぬ親戚の ともすロウソクだ
狭いすきまに ギチギチにつまる
冬のテントウムシが かみしめるぬくもりだ

闇のなかで ほのかにひかる
あれが イヤだ
イヤだ イヤだ
まとわりつく くらやみの中で
なまぬるく あたたかい
あのひかりが イヤだ


自由詩 夜の魚 Copyright 亜樹 2007-12-07 15:41:46
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