宛名の無い手紙
服部 剛
藍色のカーテンを
閉め切った部屋で
スタンドの灯りに
照らされた机に向かい
すれ違うこともないだろう
百年後の誰かに手紙を書いた
万年筆を机に置いて
深夜の散歩に出かけると
我家から二キロ離れた江ノ島の
三百六十度周る
灯台の光の筒が
靄がかる雲の間を動いていた
細い小川の流れる
彼方の空に
明滅するシリウスが
遥かな過去から
こちらに何かを云っていた
石段を下り
川原にしゃがみ
永遠を奏でるせせらぎに
耳を傾ける
( 細い小川の流れは、闇の彼方へ吸いこまれ・・・ )
先ほど書いた
「宛名の無い手紙」を
この手から
揺らめく水面に
そっと離す