DEATH US NEVER DO PART
池中茉莉花

「あと1分」
無骨な声が響きわたる

モニターは緑の直線を描いている

注射痕で赤紫に染まった
骨ばかりが目立つ手に
わたしはくちびるを そっとつける
将のなまぬるい肌が微かにわたしを跳ねかえす

眠りつづける 彼のまぶたが男の指でぐいっと開けられた

「お亡くなりに」

そのひとことで
たったそれだけで
将は死んだことにされた

わたしは 自分の脳細胞が 
揺れながら麻痺してゆくのを
耳たぶで感じ・・・

・・・

おぼろげに霞んだ女の顔
その輪郭を辿ってゆくと
将の眼

ちがう 義姉さんだ

「素子さん、素子さん」

身体を抱きかかえられ
押し出されるように
わたしは前へずるんと倒れ込んだ

将 まさる マサル

マサルが

街で一緒に選んだ臙脂のネクタイを身に着け
黒い箱に詰められてい・・・

マサル マサル

耳のしこりは
盲腸の傷は
背中のほくろは
足の裏の角質は


彼からわたしを引き離そうと
背後から巻き付いてくる
無数の手を引きちぎり


わたしは今
凍てついた将のすべてを
全身の痛点で感じている


自由詩 DEATH US NEVER DO PART Copyright 池中茉莉花 2007-09-28 22:10:45
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