親戚の欠片
あおば

              070925




こけら落としの上演には
伺いますと
従兄弟のこけしが呟いて
お財布の底を覗いてる
たった一枚
見せ金の一枚だけが
身を固くして
張り付いていて
きちんと畳まれた
新聞紙の束が
100万円単位を誇ってる
分厚く見えるお財布の中には
虚飾の疲れも貯まっていて
外国製の革の衣を脱ぎ捨てて
温泉にでも浸かりたいという風情
これが今の実力ですと
従兄弟のこけしは呟いて
起き上がりこぼしのような
毎日は
不安定のようでいて
綱渡りには必要な
バランス感覚養成に
必要なことなのですと
独り言を呟いて
挨拶も抜きに
満員電車に紛れ込み
山の手線をグルグルと一巡り
もう、
それで気持ちが吹っ切れたのではないのですかと
別れた人たちが下手から囁くと
座敷牢のような楽屋の中で
読経の稽古をしている
いくつになったら
独り立ちできるのか分からないが
下積みのままで
名前も分からないままに
幕が下りて
上演回数だけがカウントされ
せっかくのお祝いなのに
仲間はずれにされたように
今日も顔を見せられない



自由詩 親戚の欠片 Copyright あおば 2007-09-28 21:33:00
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