ヤツカハギ
月見里司

僕がヤツカハギに出会ったのは
まだ子供のころだった
太陽がまだ高い時間に
あぜ道で一人になったりすると
山の向こうにぽよんと現れるなんだか大きいやつだ

1000メートルくらいある山なのに腰から上が全部出てて
目玉が大きくて
髪がちょっと薄かった

ぼんやり見上げていたら僕に気づいたらしく
 おおい
なんて話しかけてくるもんだから
おおい
とできるだけ大声で返すと
くすくす低い声で笑うので石を投げてやった
どうせ届かないし

ヤツカハギとはたくさん話をした
答案をドブに捨てているのを見られて
例の低い声でだいぶ笑われたり
(その時はいつもより力をこめて石を投げた、どうせ届かないし)
カサリちゃんが好きになってしまったけど
漢字がわからないと相談されたり
僕にもわからない

そもそも、お前の名前がどんな字かわからない
 すねが八つかみあるからヤツカハギだ
お前それよりでかいじゃないか
 生まれたときはそのくらいだったんだ、育っちゃ悪いか

ヤツカハギは大きい以外普通の友達と変わらなかった
でも、ドッジボールはできなかったのだ
二人じゃ勝負にならないから

僕が大きくなって、あぜ道のない町に引っ越しても
ビルとビルのすき間から
ヤツカハギは時々頭を出している
もう投げてやる石も落ちてないんだ
と言った僕と
すっかり大きくなった僕やカサリちゃんが
自分よりずっと小さいことを知っているヤツカハギが
人間の顔で笑っている
同じ大きさに見えるくらい
遠くで


//2007年8月8日


自由詩 ヤツカハギ Copyright 月見里司 2007-08-08 12:39:35
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