彼女はサボテン
hiro

長期出張を終えた気分晴れやかな私の前に
あんな残忍な光景が待ち受けているとも知らず
私はエレベーターの前で玄関扉の鍵を指に絡ませ
クルクルと回しながら扉のほうへと足を進めた

はじめに玄関扉を開けるみると
鼻が曲がりそうな臭いに襲われた。
私は何が起こったのか心配になり
急いで土足で足を踏み入れ廊下の奥へと進んだ
歩く度に埃が立ち上り 私の視界を遮る

私は徐々に異臭のするほうへと足を運ぶ
するとそこには私の想像を絶する
惨たらしい光景が広がっていた

私はしばらくの間、足が凍りついて身動きできないでいたが
あの楽しかった日々に思いを馳せていくうちに
纏わり付いた氷は徐々に心の泉へと溶けだしていった





僕は毎日うちに帰ると一目散に君に駆け寄って
血まみれになるくらいじゃれ合ったよね
その後 僕は 傷口を自分で縫合してたんだぜ


ディナーのときはいつも僕だけが食事をとって
君は水しか手にしなかったよね
肉食主義者でもなく菜食主義者でもないと
気づくのには時間が掛かったよ
 
何度か君の肩に手を回わして寝ようと試みたが
君は恥ずかしそうに払いのけて僕の顔をしかめさせたよね
毎朝 赤に染まったシーツを洗濯してたんだよ

飲んだくれて仕事から帰ってきた僕が
君に棘のある言い方で八つ当たりしたときも
君は優しく慰めてくれたよね。
そのとき初めて君と一つになれた気がして嬉しかったんだよ

最後の最後まで君の緑色の艶やかな肌に
触れることができなかったのは本当に心残りだけど

誰よりも優れた止血方法を知っているし
誰よりも血液をつくる食物を知っている

誰よりも棘の怖さを知っていて
誰よりも君を愛していた
あれもこれも君のおかげだよ



君は僕より先にあの世に行ってしまったが
君の分まで僕は生きてみせるよ
そして君と初めて出逢ったあのホームセンターに行っても
他のヤツには目もくれないから変な心配するなよ


僕は目に涙をためて 無残な形となって横たわった君を煎じて飲み
君の苦しみを一緒に味わった。


自由詩 彼女はサボテン Copyright hiro 2007-07-12 10:51:02
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