いつか詩になれるよう
松本 卓也

黒で彩られた人達の中で
どうにも落ち着かない感覚に襲われる
その家に訪れた不幸を
何とはなしに自分に置き換えてみる

命はやがて尽きる
そんなのは当たり前の事
なぜかしら目頭が熱くなり
微かな恐怖が胸を過ぎる

奇妙なほどリズミカルな法華経の念仏に
多分昨日まで生命だった肉塊が見送られる
泣いている人 俯いている人
訳も分らずきょとんとする子供
お義理で木魚に聞き入る僕

こんな風に泣くのだろうか
あんな風に悼むのだろうか
もしかしたらあの子供のように
何の実感も得られないまま
周りに流されるだけかもしれない

そういえばまだガキだった頃
お婆ちゃんに縋りついて
死んだらどうなるのって泣いてたな
今はもう三十も近くなったから
誰かに縋りついて泣く代わりに
布団を噛み締めて大声をあげたり
枕を抱きしめて壁を叩いたりして
紛らわせているだけだけど

いつか笑って逝ければいいな
唯一残された目標のようなもの
いつも微笑んでいればもしかして
いつの日か訪れる時だって
微笑んでいられるかもしれないな

端々で語られる物語のように
誰かの中で想い出になれるのかな
いつかどこか何らかの形で
僕は確かにそこに居たと
思い出してもらえるかな

もしそうなることが出来たなら
いつかあの小さな木の箱に入って
聞き入るだろう辛気臭い念仏だって
希望を奏でる送別歌に聞こえるのかな

教えて欲しいわけじゃない
ただそうとだけ信じていよう
顔も声も知らぬ誰かを通じ
僕が詩を詠えるように

顔も声も知らぬ誰かが
僕を詩にしてくれるよう


自由詩 いつか詩になれるよう Copyright 松本 卓也 2007-06-20 23:25:28
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