かなちゃん
ひろっち

海のにおいが、僕の頬を伝っています。
秋の御日様は雨上がりのコンクリートを照らしています。
途中、後輩(地頭江くん)がコチンコチンのオキアミを潰してくれました。
僕は今、十年ぶりに竿を垂れているのです。



おさかな釣れるといいね。
と、
会社の先輩(坂田さん)の娘かなちゃんが言ったので、
そうやね。 と、視線をそろえて言いました。

かなちゃんはアトピー性皮膚炎で顔が真っ赤に腫れています。
鼻水垂らしながら無垢な笑顔でお父さんの後ろをウロウロしています。

おとうさん釣れないなぁ、おとうさん釣れないなぁ、
(さかな見たいな、見てみたいな)

釣れな、
あっ、
って、今かなちゃんがこけました。
でも、


「かなコケても泣かないよ」


っていって力強く起き上がりました。
かなちゃんは可愛いです。 おとうさんが大好きみたいです。



人生って捨てたもんじゃないですね。
山と谷のギャップは辛いけれど、それを克服すれば金曜日のアフター5のような雰囲気が蘇ります。
朝の海のにおいを胸いっぱいに吸い込めば、社会的地位や学歴なんてどうでもよいもののように思えてきました。 少し皮肉かもしれませんが。



かなちゃんが笑っています。
かなちゃんは波の高さに腰が引けています。
かなちゃんは精一杯生きているんです。



「かなコケても泣かないよ」
って、君もぼくもこの意気込みで頑張らないと。



ところで肝心の釣りなんですが、一向に釣れる気配がありません。
きっと今日のこの寒さと波の強さがいけないんでしょうね。
そう坂田さんに漏らした途端、
地頭江くんがいいかたのヒラメを釣ってました。


自由詩 かなちゃん Copyright ひろっち 2007-06-10 23:14:08
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