ライトブルー
チグトセ

遠くの雲が寄ってくる
僕はそいつに親しみを覚える

心の中の気まぐれな破天荒は
あの雲のように
高くなったり
低くなったり
見えなくなったり


目を細め、濃淡の薄まった視界の中で
そのちぎれ雲をなぞって一周する

そうして空に一箇所だけ
宇宙の黄色い淵まで通じる
素敵な穴を開けてやったのだ

隣で
車輪が
浅い水際に浸かって
ぷちゃぷちゃと
波を返す
僕は頭を海へ浸し
香ばしい潮を聴き
ソーラーエネルギーにあたためられる
つま先が
恋しげに水平線を指さし
体は底流の余韻にときどき
揺れる

防水加工を施してあるのか
砂と薄い水色に埋もれた
壊れたように見えるラジオは
いかにも古そうな錆のある音で
クラッシックを気ままに演奏していた
知らない曲だが
きっと愛の曲だ
間違いない
何故なら、悲しげで、少しだけ明るいから


指先がさあっと溶けて海と同じ色になった
その場所から感情が流れ出ていった
きちんと整列して
ごちゃごちゃに混ざらずに
自らの意義を把握して
それぞれの筋を進んでいく
撫でようとして指を差すと
泡と一緒にむずがる
ので、そっとしておく

やがて輪郭も溶けて
僕は仰向けのまま広い、広い広い広い広い広い海へ広がっていく
ラジオのスピーカーから流れる音楽は
まだ悲しいメロディのまま
僕はただ、
メロディが早く明るい音にならないか、ということだけを気にしている
そしてただ、
気がかりだった君が最後に出てきた
閉じた目蓋の薄い裏側で浅い夢を見た
幕間の風景
僕は君と自転車に二人乗りして逃げていく
丘を越え橋を渡り踏切を突っ切って
だけど君は途中で消えてしまう
でも、お終いに君は笑顔だったので
よかった

安心感をよすがにして、僕は
やがて本格的な眠りの中へ閉じていった
短く繰り返す波音はやがて
静かな雨音のように、聞こえはじめた


自由詩 ライトブルー Copyright チグトセ 2007-04-29 14:44:01
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