夢と君とさよならの話
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四月も終わろうかという頃
まるで冬枯れの車内に身震いで目覚めたので
夕暮れの油山を取り囲むように出現した街に
シビックの眠気を誘うパッシング
モールス信号を試みる
間髪を入れず
一斉に返答してくるのは
いち早く日没することになった
山の影に住む人達の切なる願いで
日照権を盾に市を相手取る

山をミケランジェロに削らせよう
但しヘンリ・ムーアの様式で
然る後、その削り出された土砂石を粉砕し
あなたを称える階の材とし
伐採した木々は
沈みかけた国々を浮かべる筏としましょう
そして引き抜かれた花々で
ビル群の屋根を迷彩すれば
乙女達を彩る香水が
余すことなく溢れる泉としたい
これが私共の要求と
博多を更にアジアの盟主たらしめる
ビジョンの概要でありますが
どうでしょう?
あなたの御意見を是非お聞かせ下さい

そんなおびただしい光量にまぎれて
途切れとぎれではありながら
懐中電灯の細いひかりがしっかりと
兄の右手と弟の左手に握られていた
自分達を棄てた親の事が知りたいに始まる
数々の何故
心は孤独に練られ
それが人を愛する糧となるが
彼らの声はあまりに幼く
その願いすべてを届けないうちに
ひかりは静かに呼吸を止めるだろう

何故人のことばは言葉に向かってのみ語り
瞳の闇から目を向けぬのか
何故人のからだは燃焼する事でしか
再生しないと訴え食い続けるのか
何故人の服はいつも新しいままで
いつまで経っても翼を持たない?

(そんなことよりも)
(何故の私はなぜなんだ?)

と言った夢を見たような顔つきで目覚めると
きみはぐるぐると窓を開いてアンテナを空に伸ばす
野球中継にチャンネルを合わせしばらく聞きいった
ラジオが八回表の攻撃の終了を告げると
シー・エムに舌を打ち外に出る
山の影は飛行場までその指を拡げ
そこだけはやはり街の夜で
残照に浮かぶ雲のハイライトは
季節を次の春から移そうとしていた
きみは髪を解き
ぼくはラムの瓶の栓を回す

冷たい春の風を受けて
きみは放心したようにぽんと崖から飛び降り
やがてま白い翼で羽撃く
滑空しながら捕まえた風の端をひとつ打って
あっと言う間に成層圏を越えていった
取り残されたぼくは
きみがそんな行動をとると思えなかったから
(あたりまえだ)
その時きみがどんな顔だったのか
(あたりまえだろう)
知っておこうとも思わなかった

綿毛ひとつ残さないで
一瞬できみがほんとうに存在したのか
これまでの人生、悪い夢に変えられた気分
ぼくはゆっくりと時間を掛けて
残りのラムを瓶から腹に移した
フロントガラスから見下ろす街の声に耳を澄ませても
何も聞こえないので
まだ残照の残る空に向けて懐中電灯を点滅させた
またたく星々の返事は人間のものと大差なく
それにも退屈した頃
さよならも言わずに去った
君の贔屓のチームはサヨナラ負けを喫した






自由詩 夢と君とさよならの話 Copyright soft_machine 2007-04-27 18:52:24
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