失語症
華水蝶子




【失語症】


嗚呼 宵闇に
涙するは金糸雀

その二つの金の眼は
ただ在るべき姿へ
還りたいと
白い頬を濡らすけど

涙を拭ってくれる
愛しき彼の人は
既に霞んで
遠い空の向こう側

…独りにしないで

その消えゆく想いさえ
酷く渇いた唇では
歌うことさえ
出来やしなかった

恋しい、恋しい、と
繋がれたままの
その想いをはせて
毎夜雫を溢しても

所詮 模造品な私を
正しすぎた貴方が
愛して下さらないと
理解だけはしてるけど

(無機質の冷たい熱
見下ろす貴方の視線
突き付けられた真実
その全てが
痛くて悲しかった)

けれど

その 懐かしささえ
覚えてしまう
白い指先が余りにも
優しかったから
少しだけ勘違いを
してしまいそうです


(置き去りの私を
抱き締めてくれる人は
もう居ないけれど
唇だけが渇いて
貴方を想う声さえ
失ってしまって

嗚呼

声が出ないのです)




自由詩 失語症 Copyright 華水蝶子 2007-04-26 09:07:30
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