フジコ・へミング
渡 ひろこ
それは「ラ・カンパネラ」だった
かきたてるような狂おしい響きに
幼い日に聴いた 胸の震えが蘇える
あのクリスタルの針が
ふれあうような高音が
ころがるように鳴り響く
軽やかに跳ねまわる
年輪のきざまれた
彼女の指先から語られる
“なにか” をつかみ取りたくて
心を凪ぎにして
水面
(
みなも
)
をピンと張りつめる
スケールに重なる背景
幾重にも波紋を描き
何度も立つ鳥肌から
その毛穴の奥まで染みていって
ふりそそぐ波動を
共有したいと思うのは
私だけではないだろう
どこか蓮っ葉な童女は
一瞬で
神々しいピアニストとなり
その
未曾有
(
みぞう
)
の
硲
(
はざま
)
を
スルリ とくぐり抜ける
見えない透き間に何があるのか
耳を澄ましても
ただ彼女の熱い魂がかすめて
身体の中に
ほてりだけが残った
自由詩
フジコ・へミング
Copyright
渡 ひろこ
2007-04-17 20:16:20