キヨスクと詩集
楢山孝介


最寄り駅にあるキヨスクでは
店員のおばちゃんが詩集を売っている
おばちゃんの書いた詩や
駅員の書いた詩や
ホームの柱に落書きされていた誰かの詩が
そこには載っている
地域住民の出した詩集も一緒に並べられている
全て百円であるから、結構売れているようである
僕も時々買う
「あんたも何か書いたら? 印刷所紹介しよか」
と声をかけられたりする
僕は嬉しさと恥ずかしさを押し隠して
黙って首を振る
おばちゃんは別に
僕が詩を書いていることを見抜いたわけではなくて
詩集をよく買う客にはとりあえず声をかけてみるらしい
おばちゃん作の詩にそんなことが書いてあった

「私は毎朝ときめく
 夫ある身だがひたすらときめく
 いい男が来るたびときめいている
 ある朝、尋常でないときめきが私を襲った
 その客は怪訝そうな顔をして
 『母さん、何やってんだ、早く釣り銭くれよ』と言った
 何と、よく見ると私の夫ではないか
 そりゃあときめくわけだ」

いや、この詩は全く関係なかった
とにかく、人は誰でも詩が書けるのだから
書けば人に見せたくなるのだから
こうして安く売ればいいのだということを
おばちゃんはどこかで書いていた

今日僕は、詩を書いた手帖から一枚破って
こっそり、駅のホームの端にある、
木の柱に押しピンで留めてきた
あまり深くは刺さなかった
わざと風の強い日を選んだ
別に吹き飛ばされても構わないと思った
誰にも見つけられなくても構わないと思った
でも少し気を緩めて
おばちゃん監修の詩集の中に
僕の書いた一編が加えられて
キヨスクに並んでいるところを想像すると
恥ずかしさよりも
嬉しさの方がずっとずっと強かった


自由詩 キヨスクと詩集 Copyright 楢山孝介 2007-04-10 13:09:03
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