その理論はすべからく間違っている
と僕は彼に言った

この部屋の中を見回してみろ
居眠りしてる奴らばっかりだろう？
教授の経済談義を真面目に聴いてる奴なんて
その数はいかほどのものかと言えば
青酸カリの致死量みたいなもんだろう
寝言は寝ながら言ってくれ
しかしながら
寝ているあいだに果報なら
起きてる誰かが持って行く
そういうことだ

いいか
お江戸の時代と比べりゃ僕ら
その数１０倍いるんだぜ
単純に考えてみれば
現代には徳川家康が１０人いるってことだ
１０人の家康のうちの１人は
ホトトギスが鳴くまで待ってみたらその結果
天下を手に入れることができたが
残りの９人の家康の身には
とくに何も起こらなかった
今年もまたホトトギスが鳴いただけだ
しかも今や僕らはネットで繋がれていて
１０人の家康は全員顔見知り
しかしながら
何故あの家康だけが天下を手に入れ
毎晩「不味い」と言いながら分厚い神戸牛を口にし
僕らは依然として
カップラーメンに浮いた肉、
なのか何なのかよくわからない茶色い塊、
を口にしなきゃならないのか
それは９人の誰にもわからない
でもどうせ
そこに理由などなく
同列のパーソナルの中からあいつだけが選ばれた
「理由」などはなく
だからって
イコールそれが不条理か？
冗談甚だしいぜ
それは自然の摂理だろう？
いや
すまん
少々飛躍した
まあ
つまり

ああ
何を言おうとしてたんだか忘れたよ
まあ
どうでもいいだろうそんなことは

とりあえず
俺は寝るから
今日オールで新歓飲みなんだよ……
だから講義終わったら起こしてくれよ
あとそれから
さっき殴ってごめん
でも
尻もちをついて鼻血を垂れ流しながら
唖然として俺を見つめるお前の顔は
ずいぶんと、そうだな
ドラマチックだった気がするよ