浴室狂詩曲
朽木 裕

溺死なんて醜いのは御免だわ

そうだね、でも

でも?

君の白い体が血に染まった湯船に浮かんでいるのは美しいな

それはどうも有難う、私も同じ意見よ けれど

けれど?

その白くて美しい肌に貴方の絞殺の痕が付くのは厭

そうだね、でも

でも?

その柳眉が苦悶の表情に歪むのは胸高鳴るね

そうかしら 貴方はどうしても殺したいのね?

そうかもね 君はどうしても愛していたいんだね?

勿論よ こんなにも完璧な美ってないわ

全く同じ意見だよ 違うところはただひとつ

なぁに?

君は美がより一層発展し得ると信じてやまない

そうね、貴方は違うのね?

私はね、美はもう衰退の一途を辿ると考える

私が醜くなると云うの?

端的にはね、そういうこと だから此処に行き着くのさ

此処、って それは

美しいものは得てして愚鈍だ 聡明では詰まらないがね

なに、怖いわ

すぐに分かるさ 私の目を御覧

分からないわ

君が長年共に暮らしてきた男の素性さ

分からない

言葉で理解する前に心臓が止まるだろうからご心配なく

な、

あぁ矢張り綺麗だ 美しいかんばせには苦悶の表情が似合う

に、を

おや皮膚が切れてしまった 意外に惰弱だね 面の皮と違って

や、めて

御覧 見えるかな?綺麗な鮮血だよ 美味しそうだ

おねが、い だ、から

綺麗に死ねるんだ 文句はないだろう?



君の好きな浴室が墓場 湯船が棺桶

ァ、

ほら白い肌に赤がよく映える



もう事切れたか 実にくだらない けれどまぁ楽しめた方だよ



五年目の自己紹介をしようか

××だよ 君の好きな下劣な番組でよぉく知っているだろう?

おやすみ 愛しのジュリエッタ


散文(批評随筆小説等) 浴室狂詩曲 Copyright 朽木 裕 2007-04-05 22:02:07
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