刹那
深散

もっと北の国では、雪が降るという。
ここでは雪は降らない。
でも、風が吹く。
そして、空が澄み、
星が降る。

極寒の異国で見た雪は、
見事な華の形をしていた
じっと見つめなくとも
黒い私のコートの上に
ぱらぱら
それは細工物のように
あっけなく
あどけなく
降りてきた。

一瞬、を生きている。
過去、や未来、なんて所詮幻想に過ぎない。
過去を巻き戻す濡れた頬の皮膚をかきむしって
そう思う、思おうと
過去は、標本。
それは、決して触れられないもの。
もう私以外のもの。
虫ピンで、刺していく。
そして、もっともっと
私の皮膚が濡れなくなったら
いつか、取り出して、みるんだ
それまで
一瞬、を重ねる。

大きなひとつの幸せ、なんて案外、ない。
小さないくつもの、さりげない幸せを、
毎日、ひとつでも見つけること。
その、一瞬に。

星が降ったら、その輝きに。
家の明かりのように白くてらす月に。

光る、今、一瞬に。


自由詩 刹那 Copyright 深散 2007-03-11 00:34:40
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