トイレスリッパ
竹節一二三

話したいことがあるんだ
君は恥ずかしげにわたしにそうささやいた
トイレスリッパを突っかけて
ゆっくりと橋をわたる
はばひろい川の橋は坂が急で
調子の悪いわたしの体を
いたわろうともせず
花びらがとおりすぎた

坂をおりさらに階段を下りて橋のしたへ
はなびらは雪のように舞い
わたしの呼吸をあやうくする
雪が降ると息が出来ない
そう伝えていたはずの君は
くるしそうなわたしをみない

トイレスリッパが
しろいはなびらを踏みにじる
黄色いタンポポの花にさえ気づかないのか
踏み
爪先で土をとばす
靴下が汚れる
土の汚れは落ちにくいのに
わたしはわたしが洗濯するわけでもないのに
そう心配になる

はなびらは未だ
わたしをとりまいて
わたしは雪の幻影にとりつかれる
話したいことって
苦しい息の中からそう問うと
きみは 忘れた と一言
みどりの地面はところどころ土が出て
その上にはなびらがおちる

トイレスリッパははなびらをけちらさない
わたしは雪のかわりに
はなびらを捕まえてばらまいた
トイレスリッパのあしにはなびらはつもり
君はトイレスリッパごとさくらの花になる


自由詩 トイレスリッパ Copyright 竹節一二三 2004-04-08 20:59:28
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