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奥深く海底の熱水床
わたしが今呼吸をしている処
群がる白い蟹は
わたしであるための遺伝子を
鋏で千切りまた繋げる
染色体を失った肉体だが透明ではない
保護色を身に着けたわけでも ....
ピーマンだった朝
ごぼうと言われた昨日の昼
もやしっ子と中学時代揶揄され
これまで
土の匂いが抜けたことは一度もない
ハウスに移り住んだのは妹と義理の弟
僕は小さな畑の端っこで
売り ....
箸が並んでいます
きれいに連なって並んでいます
じいっと
待っているのです
箸が並んでいます
もう
ここには帰ってこないのです
四月
空に舞う
傲慢なのかもしれない
あなたは僕を遠ざけて近づくことはない
風を伝って
光りを浴びせて
もう巡り合うことのないその瞬間々々
想うことでしか触れられない
あなたは
....
知っていますか
あなたが長い黒髪をなびかせたとき
真昼の純粋で無垢な輝きを消し去ってしまうこと
知っていますか
あなたが落ち着いた声で語るとき
街中のにぎやかな喧騒を消し去ってしまう ....
忘れ去っていく言葉よりも
あなたのいのちの清さにふれて瞼が閉じる
いつまでも文字にならない
あなたの悲しげで透明な息づかい
反復するあなたの鼓動が
休もうとしている風を揺るがす
あ ....
何も知らなかった
(そう叫ぶべきだった)
冷えた夜の欠片をかじりながら
一度切り裂いた真昼の夢を拾い集める
オブジェにならない粘土
翼の破れた折り鶴
なにもかもが中途半端
....
ただよう雲
なびく風
うなだれる向日葵
生きているよ
話しかけられた気がして
ただようぼく
なびくぼく
うなだれるぼく
生きているか
軽く肩をたたかれた気がして
地平 ....
貴女の舌をください
と頼んだ
清々しい朝の匂いのする舌だった
僕は衣類を脱ぎ捨て
土中のもぐらになって暮らしはじめた
「夢ならば」
肌を刺すような風
なびいて
夢 紅葉狩り
枯れていった草
大地に帰り
恋 秋の囲い
夢ならば
流れ去る一筋の光
夢だから
忘れいく装飾の色彩
夢の中で誰かの手が伸びてきて
グルグルグルグル
ねじまわしの音
目が覚めて
鞄を持ちながら
あっちの会社こっちの会社
くるくるくるくる
回って回ってときたま鞄を叩いてチャ ....
昼下がりの人気の少ない公園のテーブルで
ノートを広げ
考え込んでいる様子
まさか遺書でないでしょうね
まだまだ若そうな女性の人差し指が
あごを支えて止まっている
見知らぬ人だか ....
僕に詩(うた)を下さい
書き損じの紙切れ
池に舞い落ちた木の葉
真夜中の月の海
僕は何処かに置き忘れているのかも
駅の遺失物の棚
旅先のホテルの一室
ツンドラの森に
いつも
....
どんでん返しの日常の繰り返しで
あわてて僕は
鍋から落ちそうになったこんにゃくを拾おうとする
わかっているのかな
この僕を
こんにゃくはぬゆりと簡単には掴めない
のっぺらぼうで無愛想
角 ....
誰かに手紙を差し出したい
秘めた恋心を
白い便箋の罫線の間にそっと忍ばせて
誰かに手紙を差し出したい
今朝咲いた朝顔の欠伸が
黒いインクの文字から聴こえてくるように
誰かに手紙を差 ....
あなたの詩に抱かれていたい
僕は乾燥し切ったせんべいです
あなたの詩を抱いていたい
僕は受信感度の悪いラジオです
あなたの言葉の調べで眠りに就きたい
僕は炭酸の抜けたコーラ
....
むすんで ひらいて
むすんで ひらいて 手をうって むすんで またひらいて 手をうって、その手を 上に
むすんで ひらいて 手をうって むすんで
*
結んで ....
もう
君のいるところは
桜の花が一面に広がって
陽気な君を
さらに陽気にさせているのだろう
はかなさよりも
いまのよろこびを
空いっぱいに舞いあがらせて
まだまだ
遠い桜前線
....
言葉足らずの季節がやってきて
降り注ぐ涙も白い息を吐く
部屋の暖炉で暖まっていたのは
自分一人だけ
棚に飾ってある詩集が
染みで黄ばんでいくのにも気がつかず
突然起きた表層 ....
唇を重ねたように
息がつまりそうな真夜中
声を荒げて
逃げだしそうになる都会の真ん中で
小さな羽虫たちは
か細い灯りに寄り添い
汗臭い涎を垂れ流している
相槌のない会話が延々と続 ....
開けた窓から
今朝も差し込む
眩い輝き
静かなささやきに
手を伸せば
置きっ放しの夢の種
芽がちょっぴり顔を出し
出合い頭で鼻をつつかれる
通りすがりの薫りが ....
響き
(響き)
朧夜が鳴いている
乳白の温もり
掌の母の心音
(迷い)
蝶に吸われて
ひらり
闇夜に零れる
(嘆き)
蓮の華 ....
「へそ」
夕立とともに雷が落ちる音がして
少年ははっと目覚める
もしかしてへそが盗られていないか
あわててシャツをめくり
お腹にちいさな穴が残っているのを
確認して
ほっとしながら ....