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ねむたくて
ぼんやりしてると
人の話聞いてるの
と雌ライオンの
妻が言うので
雄ライオンの僕は
目の前を通り過ぎていく
バスを見送って
聞いてるよと
ラ ....
水に触れると
懐かしくて
飛び込みたくなるけれど
息が出来ないから
死んでしまったあの人や
まだ生まれていないその人は
水の向こうにいるのだろう
何度も水に触れると
く ....
暗闇で
手を繋いで歩いていた
手首だけになって
手首からその先は
僕のようで君ではない
魂になったように
君の息遣いが聞こえる
楽しそうに
何か話してる
僕も何か答え ....
青い血が焼かれ
夜が訪れると
失った
命の部品を探しに
空が朝を追いかけていく
僕は君を追いかけていく
君がかつてあった時を
空とは反対の方へ
君の赤い血が流れてい ....
しまわれている
音がする
きっとそこは
水が流れている
遠いところ
私たちの
さかなたちが
静かに息継ぎしてる
幅も奥行きも
高さも失ってしまったのに
それ以外 ....
僕らは出会った
地上から空を見上げる
距離でしかなかった
そんな僕らが
とても遠いところから
生まれてきたような
そんな僕らが
買ったばかりのノート
一ページ分にも ....
蛇口をひねると
水の流れる音がして
母の声が聞こえる
何を言ってるのかわからないのに
それは声であることがわかる
蛇口をしめると
母の声は止む
雫が数滴零れると
泣いて ....
扉がひとつあった
父さんの扉だ
厳重に施錠されてるので
誰も開けることはできない
父さんの少年時代のことは
聞けば話してくれるだろう
けれども僕は聞かない
なんとなく照れくさ ....
ふとわたしはある予感がして
お風呂場へ走ってゆく
扉を開ければ片隅にいる
たわしは新しいたわしに
買いかえられていた
お風呂掃除係のわたしに
ぼろぼろになるまで付き合ってく ....
トランプ遊びしてる
息子とカルタで
きっと何か間違えてる
けれどもそれは
それで楽しい
ためしに
どっちが勝ってるの?
と息子に尋ねると
嬉しい
とだけ答える
....
湯舟に浸かると
そこは港
ゆっくり岸を離れてゆく
目を瞑れば見えてくる
この世にひとつだけの海を
満天の星々を頼りに
湯舟はどこまでも行く
扉が開く音がして
お風呂 ....
夜が青く明けてゆく頃
除雪車の音が聞こえている
ひとつの戦争のように
降り積もる雪を魂に置き換えて
作業は続く
まどろむ真冬の月の目は
わたしたちと同じ
出来事だけを音で ....
春の影が歩いている
人のふりをして
わたしのふりをして
わたしが振り返ると
影も振り返る
いったいどんな過去を
振り返りたかったと言うのか
影は
わたし以外に知らな ....
キリンのように
長い首だったので
保育園の先生を
キリン先生と呼んでいた
心の中でも同じように
お友だちはみな
そう思っていたらしくて
ある日お友だちの誰かが
キリン先生 ....
象が海を渡っていく
かわいそうに
目が見えないのだ
かわいそうに
と人は言うけれど
思ってもいないことを
言葉にしてしまう
人もまた十分かわいそうだった
かわいそうに
何度も言 ....
始発のバスに乗ると
一人でどうしたの
と尋ねるので
怪我をして病院に通ってることを
運転手さんに話した
発車時間が近づくと
大人がたくさん
バスに乗り込んできた
知らない ....
戦争が終わらない
真夜中は
戦争を始めるため
回避するため
会議室で行われている
夜更け
戦争のための戦争は
繁華街に移行され
朝まで続く
眠らない街に
灰になって積もっ ....
わが家にも念願の街が出来た
これからは部屋の名前を
町名で呼ばなければならない
陽だまりヶ丘一丁目
そこに僕がいる
居間の窓際の辺りだ
二丁目から三丁目
キッチンが見える街まで ....
死んだ後のことばかり
考えている
それでひ孫が救われるのなら
構わないけれど
変わらなければ
と心に決めて
決めているふりをしてる
自分が嫌い
昨日と違う空を見上げたら
昨 ....
鉛筆の匂いをさせて
あなたは春になった
尖った芯が
しだいに丸くなって
やさしくなった
声、かもしれないものを
たくさんスケッチした
知ってる言葉も
知ら ....
陸上競技の大会で
入賞した
優勝ではなかったけど
おにぎりが
少し塩辛い気がした
母さんが少し
変わった気がした
僕も
晴れわたる空
というわけではなかったけれど
い ....
しっぽを空へ
ぴーんとのばして
ここにはいない人たちと
話していた
わたしたちには
そんな時代があった
ところがある日
しっぽをのばすどころか
しっぽを持たない
人に出会っ ....
たかのり君
と呼んでしまった
生姜焼き定食のことを
もちろん
たかのり君が
生姜焼き定食であるはずはなく
けれども
一度そう呼んでしまえば
そのようにも思えてきて
こんがり ....
調律が合わなくて
ピアノが港を発ってゆく
小さな港で
すばらしい音楽を奏でていた
そんなピアノが
指先から音がした
触れてはいけなかった
白と黒の鍵盤に
わたしの小さな罪 ....
ひさしぶりに実家に帰ると
お父さんが
船になっていた
甲板には母がいて
いつものように洗濯物を干したり
いい匂いがしてくる
調理室で料理をつくるのも
やはり母だった
嫁い ....
そらのどこ
とぼくがたずねると
きみは
そらのとこ
とこたえるのだった
だからぼくはまた
そらのどこよ
とたずねてしまうからきみは
そらのとこよ
とこたえつづける
いつま ....
なつこさんが代休をとった
気配だけ
そこに残して
どこにいってしまったのだろう
お昼ごろ
今日なつこさんは
お休みだったんだね
という人が
かならずひとりやふたりいる
....
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