すべてのおすすめ
蓋のない空だった
懐かしいものは懐かしいまま
浮かんでいればよかった
ジュラ紀の喫茶店で
向かい合わせに座る
また会えたね、何億年ぶりだろう
むかし話せなかったことを
いくつ ....
学齢期をむかえた父が
レジに並ぶ
帳面と鉛筆を買ったのに
店を出ないで俯いている
帰る場所がわからないらしい
どこから来たの、と聞くと
わからない、とだけ答える
やがて見かね ....
虫たちの羽音やおしゃべりが
ゆっくりと化石になりました
枝分かれした菌糸の先端に偏西風が吹いて
地球は卵のまま午後をむかえています
今日はあまり口を開けないでくださいね
体の ....
バルセロナで象を拾う
春が来ると
いつも何かを諦める
諦めたくない何かのために
火薬庫の前で
遅いランチをとった
水道を行く黒船を見て
覚えたてのように笑う
自転車のか細いペダルが
今日は博物館の
涼しい庭にまで届く
始まったばかりの夕暮れの中
まぶたの絵を描き終えて
少年は柔らかな繊維になる
ビーフシチューのネジが外れた
あっけなくばらばらになった
あんなに美味しかったのに
いろいろなパーツに分かれて
味もわからなくなってしまった
大切なものはいつか壊れる、なんて
....
ベジタリアンの君が
冷たい手すりにつかまっている
たった一人、チルドレンの僕は
探偵のようにネクタイを直して
今日も玩具の銃で頭を撃ち抜く
兄さんが虹を見ている
祈るべき神を持たない僕らの祈りは
それでも決して無力ではないはずだ
兄さんの肩にオウムが止まる
救急車が静かに横切って行く
栞が見つからなかったので
小さな紙片を代わりに挟んだ
モノクロの海の挿絵がある頁だった
砂浜に栞が一枚うちあげられていた
巻末には幼い字で父の署名があった
草原に同じ大きさの椅子が並ぶ
たぶん同じ人が座るのだろう
換気扇を回す
他にも回さなければいけないものが
たくさんあるはずなのに
待合室を浮遊する粒子
そして、その沈殿
順番に名が呼ばれ、人は減っていく
女の子が母親と手遊びをしている
ひそひそと西日が射し込む
澄み渡った世界の気配がする
赤い朝顔を買ってきたはずなのに
青い花が咲いた月曜日
今日はたしか
君の誕生日だったと思う
郵便受けに海が入っていた
海配達の人が入れたのだ
いかだが浮いてる
昨日遭難したはずの僕が
新聞を持って手を振っている
こんにちは、白いパラソルです
松田聖子の歌です
人格はありませんが、こんにちは
それでは次の曲、聞いてください
白いパラソルです、何度もこんにちは
父が潜水艦を買ってきた
またこんな大きなもの買って
と母が愚痴をこぼす
兄は鴨居の下で自分の腕を触っている
犬は昨日、何も食べなかった
ゆっくりとした花の先端から
二人で汽船に乗る
生き物の物真似をして過ごす
生きていて良かった、と時々思い
絵葉書の側で時々笑う
家の前にバス停をつくった
路線バスが一台通過した
乗客はすべてペンギン、もしくは
ペンギンの姿形をした他の何かだった
虹の下をくぐって行った
同級生がまた一人、先に飛び込んだ
いろいろあったものね
今となっては想像でしかないけれど
今年で四十五歳
空っぽの四十五歳
夏にあいたひし形の穴から
海が溢れだす
きみは定規で水平線を引き直す
クジラが大きな口を開けて
ぼくの腹話術で、あー、と言う
観覧車に乗れなかった人が
昨日から列を作って
橋の向こうまで続いている
建物や坂などが冷たい朝
フルーツは爆発する
心臓の近くで
きみがぼくの口と
お話をしている
肝臓からは
少し遠い
紙コップを満たす時間
計算機を分解し続ける少年の側で
親戚の人が斜めになってる
今日会いたい人の
苗字が思いつかないのだ
雨上がりの金属に
陽ざしが降り注ぐ
澄んでいく歩道橋の上で
ブルゾンは人の形
人が着るから
着なければならないから
産まれてくる、ということに
ここにいる、ということ ....
もし私の子供が象だったら
鼻が長かっただろう
耳も大きかっただろう
バスにも列車にも乗れないから
歩いて港まで行き
遠くアフリカまで船で渡っただろう
サバンナに沈む夕日をいっしょに眺 ....
春が死んでいた
花びらもない
あたたかな光もない
ゼニゴケの群生する
庭の片隅で
地軸の傾きと公転は
果てしなく続き
生きていく、ということは
傲慢な恥ずかしさの
小さな積 ....
海の匂いがする
わたしが産まれてきた
昔の日のように
テレビの画面には
男のものとも女のものともわからない
軟らかな性器が映し出され
母は台所の方で
ピチャピチャと
夕 ....
月工場で
おじさんたちが
月を作っている
その日の形にあわせて
金属の板をくりぬき
乾いた布で
丁寧に磨いていく
月ができあがると
ロープでゆっくり引き上げる
くりぬ ....
街がある
人が歩いている
速度と距離がある
自動販売機に虫がとまっている
市営プールのペンキがはがれている
バス停に男男女男女
窓がある
死体がある
死体の側で泣いている人 ....
目の見えない猫に
少年が絵本を
読み聞かせている
まだ字はわからないけれど
絵から想像した言葉で
ただたどしく
読み聞かせている
猫は黙って
耳を傾けている
少年 ....
妻の笑い声で目が覚めた
夢の中でも笑いたかったのか
夢の中でしか笑えなかったのか
出会った頃のように
無邪気な声だった
揺すっても起きる気配もなく
いずれにせよ
生まれ育った故郷か ....
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