すべてのおすすめ
箱の中に入っている人のこと
何も知らないのだがな
どんな仕事していた人か
どんな声で話す人か
葬式だから来いと言われてやってきたけれど
母の従兄弟と言われても
母はとっくに死んで ....
人生に設定した目的に向け
一直線に生きていける人はあるまい
散歩先に目的地を設定しても
一直線に歩いて行くことはない
前方の橋
大型犬を連れた女性がこちらに来る
わたしは 当然の ....
ぼくの中に少年のぼくがいて
ぼくの中をぼくが歩いている
ぼくの中を少女が歩いていて
ぼくの中を
何人ものぼくが歩いている
ぼくの中をあなたが歩いている
あなたは背を向け
ぼくの中でち ....
水面に風の足跡
揺れる山々
赤い花白い花
虫に食われ
風に破れ
ぼろぼろの葉
あれがぼくだよ
遠い日
ほど良い大きさの
バスタブに浮かんだ生きもの
池の面 ....
壁に掛かった能面たちは
電灯に照らし出されると
生き返る
幼い子には
能面たちの話す声が聞こえるのか
じっと見つめ後ずさりする
激しい風雨の夜は
般若面が半開きの口の奥で
歯を ....
ブラックボディの
ノートパソコンを開け
キーボードに伸ばす手
を追い越し
パネルに伸びた指
夜明け前の画面に触れる指先
から泡立ち溢れる渦
胸の傷口が割れて
大輪の洋蘭
隠 ....
山を背にした集落の
家家の屋根から突き出た鐘楼ひとつ
奥の旅を終えた芭蕉も伊勢に下る船上で
この鐘の音を聞いただろうか
港のあったこの集落に都会の風が吹き込んで
集落を縫う曲がり ....
腹の中
むかし
おふくろは言ったものだ
「おれの腹断ち割って見せたいものだ
真っ白じゃで…」
そう あなたは
腹に一物持つような了見など有りはしなかった
だが
子ども達は ....
妖怪
都会の妖怪は
昼間に出るらしい
夜は明るくて
隠れる場所が無いから
たとえば
人の途絶えた午後
ビルの屋上に出るドアの
前に佇む影
あるいは
休日の事務室に ....
世の中にはあきらめの悪い男や女がいて
失敗にもめげず研究を重ね
ときには世間を驚かせるけれど…
昨年 クリスマスに
かがり火を焚いたシクラ ....
人間の住処に入り込んで
人間の保護するツバメの
まだ飛べない幼鳥を盗み取る
怒りに任せて蛇をつかみ
初めてつかんだ蛇
のサラサラした感触
ウナギのようなヌメヌメなど無い
以来
....
今日は可燃ゴミ収集日
ゆるゆるゴムのパンツを捨てる
魚肉の切れっ端や野菜葛の異臭にまみれたパンツ
カラス除けのネットを剥がし
顔色も変えずに集めてくれる若いあなたがいる
履き替える新 ....
じっと見つめる白いディスプレイ
画面の深淵に広がる混沌
ぼんやりとした影がふるえているのだが
コーヒーを一口 指先で机を叩き
たばこを一本 目を閉じ頭に爪を立て
五分 十分・・・
一瞬 ....
山間の道路が雪に覆われていた間
馬小屋に閉じ込められていた馬
雪が溶けると小屋から引き出され
四輪の荷馬車に繋がれる
出かけるときには
隣の家の生け垣の
樫の葉を食いちぎり
轡に邪魔 ....
「この手術は何しろ心臓をいじるのだから
一00パーセント安全だとは言えない
まあ 三パーセントほどの危険でしょう
《ディスプレイでは
心臓を取り巻いた毛細管が
赤いイトメの ....
たかが検査 とは言え一晩入院
担当医は 大腸からの検針で麻酔無しだというが
ネットの口コミ体験談は どれを見ても大変そうだ
あるものは手術だといい あるものは 銃で撃つのだという
さらには 神 ....
公道から駐車場に車を入れる
「いらっしゃいませ」の声を聞き流して
雑誌架から適当に雑誌を抜き出し
窓際から店の中央へ視線を流して
空席を見付け 椅子を引いて座り込む
盆に水とおしぼりを持 ....
都会に降る雨は
ビルをぬらし
車の音をくぐもらせる
ビルに囲まれた後楽園を洗う
こぬか雨の中
大島紬に蛇の目の女がひとり
水田のほとりにたたずんで
周りのビルは雨に流れ
....
台風一過
雲一つない青空
仰観すれば…
あれっ蜘蛛一匹
秋なかば
部屋を覗くお日様
そして
スパイ ダー
ブリキの機関車が横向きに倒れ
プラスチックのミニカーが仰向きになっている
河原で拾った平たい石と
足の折れた甲虫の死骸の上で
スカートのまくれた人形と
鼻のかけた木偶が抱き合っている
形も ....
セピア色の銀板写真に
固定されたあなた
肋骨の浮き出た体で
西瓜を喰っている姿に
戦場の匂いはないとしても
あの夜
炎にあぶられた身体は
反り返り 跳ね返り
決意は ぱちぱち爆 ....
悪夢
蚊がれの字に足を上げ
腕に止まり 足に止まり
れ
れ れ れ れ れ
れ れ れ れ れ れ れ れ れ れ
....
遠方に響く地鳴りや砲声は
踊り回る現代に吸収されて
硬化した鼓膜を揺することもなく
指先のおしゃべりが
視神経に五月蠅くつきまとい
裸形の幻想を漂わせる
意欲は
ものぐさな希望に ....
隣の村とぼくの村の間に
鎮守の森が有って
鳥居の奥には不思議な気が漂っていた
大きな楠があって
その前には祠があって
神様が居るらしい
子供のころ お願いしたのだが
たとえば ....
空に中秋の満月が上るとき
ぼくは見付けた
彼岸花が長い首を空に伸ばした根元に
仰向けに転がっているアブラゼミ
つい先ほどまで生きていたような
みずみずしさ
ひぐらしの声を聞いたのは ....
大人になれば女だって立ちションが普通
どの家にも出入り口脇には
風呂の水を落とす瓶があって
三方板囲にした小便用便所と兼用
此処で男も女も用を足した
厠小屋もあるにはあったが
....
角膜を塗らす涙が涸れて
風景が乾燥する
人々は宙を歩いて
ぼくの中を通り過ぎ
アパート群を包む
光の霧はさらさらうごめき
新緑の山に光の粒子が
飛び跳ね渦巻き
光の雨が ....
船は水平線を追いかける
疲れた今日が沈み
絶望が沈み
青春が沈んでいく水平線
追いかける船も
やがては
水平線に沈んでいく
目には見えるけれども
決して捉えることは出来な ....
ぼーとテレビを見ていて
半開きの唇から
涎が一筋
急いで手で拭き…
認めない
涎を垂らしたことが老いのせいだなど
ただ 口を閉じていなかっただけ
幼児は涎を流し
若者だって 口角泡を飛 ....
はて?
住宅地の細い道
前から来た黒いセダンの
ドライバーが微笑みながら軽い会釈
反射的に会釈を返したが
ちらっと見えた横顔には見覚えがない
目で追った車は角を曲がって
その先は ....
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