すべてのおすすめ
指の股すり抜ける夏とどまらぬ羽毛のごとく軽くなる水
いつの間に居なくなったの、わたくしと部屋に棲んでたコバエさんたち
はちがつの森林浴はイメージの虫に阻まれ果たせない夢
せんぷうきが ゆっくり 室内を見回し
ざわざわ うなじを撫でる。
そとはかんかん照りで
けさ干した毛布がベランダで揺れる。
さっきから
赤い目をしたコバエが、しつこく小指にとまるので
....
こどもの手をにぎって
「あたたかいね」と言う。
「つめたいね」と言われる。
わたしが「あたたかいな」と感じたら
あなたは「つめたいな」と感じている。
いつもそうやって温度差があり
....
先生が、いい子いい子言って
わたしのあたまをなでる。
土のにおいのする、ざらついた手のひらが
高いところから降りてきて
ちから強く、あたまをなでる。
いい子いい子、土人形よろしく捏ねられ ....
舟を漕ぐ。
昏い水面。
舳先の灯りに、身をよじるさざ波。
ぐっと櫂を引くと、私とおなじ力で、圧し帰してくる
水の確かな、手応え。
立ちこめるミルクの霧を透かしても
目指す岸辺がどこ ....
昨日買った文庫本
電車内で 読んでたら
意外なくらい するすると進む目。
逸るのではなく ただするすると。
奇妙な感じ。
そうだ!
デジャヴだ!
前にも読んだ。
ひとから借りて。
....
「赤ちゃんは
この世に産まれたのが 苦しくて 怖くて 泣くのです」
と誰かが言いました。
笑わせないでください。
産まれたばかりの赤ちゃんは まだこの世なんて知らないのです。
あの ....
道を歩いていて
右隣のひとも
左隣のひとも
前も後ろも
みんながいっせいに駆け出したら
わたしもまた、わけもわからず、走り出すのだろうか
行き先もしらず、目的もしらず
押し流され、ばたば ....
赤ちゃんの髪の毛のように頼りなく
やわらかい抱擁に
「あい」というなまえをつけてみるこころみ。
おずおずとしたやさしい腕の持ち主を、見上げる。
いちねんまえの初夏の木陰で、透明な涙が光って ....
瘤だらけの罪悪感を、家に置いてけぼりに
まひるの電車にゆられ
晴れた空が眉間に滴り落ちるばしょにいく
宇宙の滴がX線になってぼくを透過して
きっとどっかたいないの、奥の方に引っかかった ....
「ガチで」と言うのは
玄関先で
火打石を打ち鳴らす音に似ている。
熱がない。
みぞおちのうえ辺りを、すぅすぅと風が通り
だいじな「おくそこ」が冷えきってる。
熱がなく
あまりに冷えているので
ぼくは永久凍土で冬眠にはいってしまう。
一千万年あとに ....
種々(くさぐさ)の根に吸い上げられる水の轟音。
あなたのその脚は、根。土に喰い込んだ根。
その根はあなたの地上の背丈よりずっと、地下高くひろがり、吸い上げている。
根の国の暗渠には、歌が ....
どこもかしこも駅なのです。通過点で、とどまれない。
数瞬、隣の人の肩とふれ、見知らぬ生活の匂いと、わたしの皮膚細胞とが、ほのかに混じる。それは、一個体として存在する孤独の、群れへの譲歩。
わたしの ....
したを向いていると
ぼたり、ぼたり、服に
投下されていく、くろい染み。
先ほどまで、ぼくのたいないにあったイオンと水分。
ここは電車のなか。
花粉症に紛れて
涙腺が稼働しているのを、こ ....
まひる、白い、アスファルトのうえ
くるくるまわり、昇っていくむしの群れ。
らせんを描き、そらへはしごをかけていく。
きっと遥かな静寂に届くまで(たとえば、海王星の近く、とか)。
暢気に渦巻 ....
春の日の午後
かわいた洗濯もの
藍いろのセーターを抱きしめたとき
はっとした。
ぼくの、鼻腔のおく、ちくちくとはじける火花
目のおく、熱がひろがる。
あなたの肩の、匂いがしたものだから ....
玄関であなたの手を握り
じっと、見つめて「じゃあね」って
言う。
そとは風で荒れ
そらはひっくり返ろうとしている。
世界は脱皮をしようとしている。
脱皮する春の皮膚へ
あなたを見 ....
運命線がないんだね
ってだいすきなあなたに
言われたので
なんだか、無性にうれしい。
つまるところ
わたしの指には赤い糸がないので
わたしとあなたは運命じゃないし
前世の行いのせいじ ....
あなたのこのみはなんだろう
と、おもいつつ
たまごを割り
しろみ
と
きみ
にわける
よく冷えた銀色のボオルに、ひしゃげた顔がうつり
かしゃかしゃと、撹拌されていく
こんげつのつ ....
あなたの胸に、耳をつける。
はらはらと
降りつもる、ゆき。
さいげんなく現れる、ぶあつい雪片。
あなたにふれた手のひらが、やはらかく折り重なり
何層にもなってゐる。
ぼくのも、知らないひと ....