暗示は歩いてゆく
眠りをめぐる回廊を
重ねられた便箋のあいだを
どこかためらいがちな
静かな足どりで
誰ひとり知り合いのないような
それでいて誰もに挨拶をしているような身ぶりで
暗示 ....
冷たい壁に背をまかせて
愛しくある月日を
思うがままに流してく
いつの日か
ここから去るだろう
そして
いつの日か
出会うだろう
新しい一日
まだ ....
私は平凡ですが
詩人は王族にもなれますし
妖精にだってなれます
けれど
愛されたいからと
あなたの愛する人に
なりすましても
無駄でしょう
あなたの
こよなく愛する
姪 ....
ウチの新聞とってくださいよ
となかなか引き下がらない新聞の勧誘員
すると4歳の娘が
「新聞とってあげる!」
と言って
リビングにあった ....
線路を{ルビ跨=また}ぐ歩道橋を渡って
小さな小学校脇の道を歩く
冷たい風に{ルビ靡=なび}く木々の葉は
ほんの数日前とはまた更に
色も重さも変えたようだ
見上げれば焦げ茶色の葉の
....
深夜の路上に
空き缶がひとつ
ぽつりと立てて置いてあった
こおん
とけっとばしてみると
そこいらじゅうから
わああああ
と逃げてゆく子供らの声がして
にわかに恐ろしくなったものの
わ ....
宵の口に呑む冷酒よりも
真夜中に飲むアイスコーヒー
君が教えてくれたこと全部
心のノートに書き留めて
明日を駆ける勇気にするの
こいびとと遠く離れても
しっかり生きていけるように
力がほ ....
彼は彼の心の中の都市で
素敵な歌を歌う
僕は時々その歌を聴きに
都市に行く
そこで彼は誰からも理解され
誰のことも理解している
眩しい太陽
美しい恋人
すべての人々を魅了し
すべて ....
うすみずいろの空気のなかに
波のように広がる まろやかな階段
動きを止めた時計の針
薄い氷の窓
やがて
透明な光が窓から差し込んで
いつかのざわめきが聞こえてくる
青白く輝き出す壁の陰で ....
地面を掘り続ければブラジルに行ける
そんな話を簡単に信じる子供だった
なにひとつ疑うことなく
銀色のバケツに小さなスコップを入れて
近所の公園へと向かった
掘る場所といったら砂場に決まってい ....
あたしみたの
あそこでみたの
ひとが 死んでゆくところ
あたしみたの
たくさんみたの
ひとが 生まれて 歩いてゆくの
川と土と木があって
虫と人と動物と
植物さえ ....
いつか、
『闇』を壊すんだ
その先にある空を
見るために
黒板の日直欄は空っぽでもう聞こえない幼い号令
すみっこでカロリーメイトをかじってる後ろ姿に見覚えがある
段ボール製のアポロの操縦桿左に倒して難破しようよ
....
心さえも{ルビ滞=とどこお}る
いつのまにか
何もかも凍てついて
時が止まったかのように
白い霜に閉ざされる朝
私の指さきも
じんと凍えはじめる
指に触れた薔薇の花よ
霜に降り ....
プラタナスの高い梢の先で
まるい種子が揺れている
風の匂いが蒼くあるのは冬しるし
澄み渡る空気に月は銀色に光る
耳をすませば
眠る者たちの息づかいまでもが
聞こえてきそうな静寂
まだ ....
ねこって可愛い
飼いねこは飼いねこらしく
ノラねこはノラねこらしい顔しているよ
やっぱし育ちなのかな
ひとに媚びるのうまい飼いねこがいて
いじらしいほどノラなねこがいる
そんなねこって
....
とうりゃんせ と唄われた
神社の裏手
一本の老樹が
わずかに肩をいからせながら
両手を広げ
しどけなく枝先を垂らす
関所と謂われたこの地で
何のためらいもなく
敷きつめられた白 ....
日曜の床屋の順番待ちで
向かいに座る少年が
ウルトラマンの本を開いて
手強い怪獣の輪郭を指でなでる
少年の姿に重なり
うっすら姿をあらわす
30年前の幼いわたし
開い ....
夢の中ではいつも方向音痴
歩きなれた道なのに
なかなかたどり着けない
いろいろな障害を乗り越えて
長い長い道を歩く夢の中
巨大なヘビに追いかけられて
逃げ込んだ場所が
おばあちゃんち ....
一 踊る
螺旋状に回る時間の渦で
ときおり光り輝く瞬間
踊る鼓動が
今日を激しく興奮させる
あなたと
アゲハ蝶が絡み合う
異国に旅したその日付
落ち葉に乗った ....
きっと
夜になったら
妖精が集まって
ダンスをする
月夜のなか
誰にも見られないように
月も星も
目を光らせて
邪魔者を監視してる
妖精の傘
ただひとつの名残
いとしいあのこが電車に乗って
白いまつげをふせながら
やわらかく甘いつめの先
僕の方だけすこしみた
ゆるくむすんだネクタイに
なみだのような白雪が
すこしつもって
ちょうちょのよ ....
――起床、起床!
スチームを切られた鋼鉄の部屋の恐ろしい朝、
一夜の温みをようやく蓄えたアクリル毛布を剥ぎ取られ
既に凍り始めた虫襖(むしあお)色のジャージを脱ぐと
柔い生肌のかよわさ ....
最近運動不足だったので
行きも帰りも
家と駅の間を歩き
めっきり乗らなくなった自転車が
ある冬の日の玄関で
肌寒そうに置かれてた
( 今日は休みだたまには乗るか )
....
空の青い昼間
緑が泳ぐ風のなか
メキシコの風の神様が見ていた
あなたの喉は
無防備に剥き出しだった
咬みついてもいいかと問うて
答える間も置かず
甘噛みした
あなたは声を上げなかった
....
バランスを無くしたのは
片側が傾いたから。
飛行船は空の果てを航空中。
上手に舵をとって
進んでいきます。
見下ろした景色が綺麗だと君が言う。
見上げた景色は遠すぎて実感が ....
りんごを食べたら
なつかしい故郷の味がした
と言ってはみたものの
この街で生まれ
この街で育ったから
故郷らしい故郷なんてどこにも無いんだけど
でも、不思議なんだよね
ひとくちか ....
なぜ そんなにも突然に
優しい言葉を呟いて
優しい顔をしているの
いつものあなたのはずなのに
どうしてわたしはどきどきするの
あなたの言葉は呪文だ
あなたのくちづけは魔法だ
肩越しの ....
黄昏、あれは
{ルビ樹陰=じゅいん}に眠るあなた
穏やかな目鼻立ちに
風が吹きすぎる
私はそれを眺めるだけの
{引用=かげり
を知っていたでしょうか}
思い出、それは
静か ....
(笑いに隠れた笑いが
私の笑い)
どうしてこの道なのか
花は空から伸びた手に向かって
口を開けている
私は守られていない
だが私は産み落とされた
体の奥に染み込んだ
遥かな ....
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