太陽に 染まる ぼくの 肉体
川面を 流れる あおい 餓鬼
都市に 浮かぶ ぬれた 眼帯
山河を 巡って 届いた 葉書
混沌の くらい 大地を 覆い
溢れる 人々は 互いを 叩き
異邦 ....
ふたりしてはだかになってだきあい
てをからめあしをからめ
さけびながらのなみだあめ
ひごとよごとのむさぼりあい
おとことおんなのむみょうのせかい
えにかいたようながんじがらめ
あれはじ ....
男がさ虚で女が実なのか
虚が女でさ実が男だって
どちらがどちらであったらいいのか
そんなことを考えながらだって
日は過ぎてゆくのだし思い切って
電話したのだよ十年前の
あの女にさなんという ....
秋霖 というのでしょうか 長い雨でした
三年 という歳月は 忍耐の最小単位
きみが家を出て一年ほどは手紙のやりとりが盛んでした
やっと抜けるような青空がひろがり快い
晴天がつづいているのだけれ ....
夏の空には白い雲がながれ
暗い緑色の湖にうつる木々
幼い想いを秘めた草いきれ
揺れて動く昆虫の青い狂気
母と若い二人の姉とぼくを
残して夏の日父親は死んだ
集まった縁者は皆知らん顔
....
病院でリハビリの担当医がもっと歩かないと駄目だという
せめて一日四〇分は連続して歩けという
テストの結果あなたは潜在体力に比べ現実体力が劣るから
このままでいくとあと十年で歩けなくなりますよ
....
友人から「いかにせん 茶飲み友だち」の上五、中七 を示されて、下五のみ、考えてみたもの。本来なら、「未句」という欄があれば、そこに出すべきものですが、ことばの面白さにつられて、付けてみました。
....
大政が死んだ
大政が死んだ と電話があった
大政が死んだ あの大政が 死んだ
トルコのアンカラで
東京レストランのヴァンさんから聞いた と
仕事仲間から電話があった
大政がねえ
大政 ....
ピジョンロックというから
鳩岩 鳩の岩なのに
一羽の鳩もいないのはどうしたことかと聞いたら
人が撃ってしまったのだという
だから 鳩岩に鳩はいない
ベイルートに平和が来ないのは
まさか ....
人間の目は二つ並んで顔についていて
顔には体躯がつながっているから
目だけを切り離すことはできない
自分の体躯と一緒に目は移動する
しかも目は外を見るようにできている
生まれたばかりの赤ん坊 ....
灰色の朝でも、
朱色の朝であっても、
六時の時報をラジオが伝え、
その日がたとえば八月十五日朝六時のニュースです、と
個性を消した声がする。
日々つみかさねられ、くりかえされてゆく
あたら ....
夕闇が迫ると
遠い海が騒ぎ出す。
半円形の観客席に
色とりどりの衣装を着け
首から番号札を吊り下げられた人魚たちが舞台を見下ろす。
一人の男が登場する。
おどおどと観客席を見上げる。
....
蜘蛛の巣が
空いっぱいにひろがるように
石炭運搬システムはかたちをととのえつつある
複雑にからまる配管
たちならぶタンクの密集する水処理システムは
巨大都市のように姿をあらわすはずだ
....
情秋や太郎は白く流れたり
情秋や次郎は黒く流れたり
六月の空を見上げると
白い雲が流れていく
「思ひ煩ふな
空飛ぶ鳥を見よ
播かず刈らず蔵に収めず」
人にあい人とかたることにつかれ
郊外の家にひっそりとこもり
目をとじると
さびしそ ....
十九世紀の石造りの建物が
蝟集する街
周囲に広がる田園や川や木々の緑の
歪んだ円形が
豊かにどこまでものびてゆく
牛糞が舞い
排気ガスや人の群れの
めくるめく騒音の海から隔てられて
....
言葉忘れたカナリヤのニヒリズム
金色の缶ビールお墓は草茫茫
夏痩せしたい狸の太鼓腹
古里なんてあるものかと炎暑
しろい両腕を頭に乗せて突き出す乳房
もう久しく机に向かって ....
インド最大の商業都市ボンベイ
高級ホテル 三十五階建てオベロイタワーの窓から見下ろす
女王のネックレス
アラビア海に沿うて
ゆるやかに湾曲してはしるマリンドライヴは
女王のネックレスと呼 ....
不機嫌な運転手の硬い毛髪の臭いに堪え
埃塗れの道を走り続けて永い時間が過ぎ
険しい人の顔が溢れ活気ある村落に着く
下半身に溜る不快な重量は増大してくる
乾季のただ中に晴れ上がった大インドの
....
江戸へ留学中との便り届いた
冷房の部屋に江戸の伝奇小説
復讐奇談安積沼山東京伝
桜姫全伝曙草紙もまた
沖縄旅行のパンフレットの華美
あおじろい肌をした
女占師の
みひらかれたおおきな眼がじっと掌をみつめる
運命線がきえています
つぶやく口もとの酷薄なあかい色に
おそい夜の照明がつよくあたる
ふっくらとした親指のつけねは ....
汗掻いてひたすら歩く狸の里
ハムもソーセージも食ってない
犬を連れた貴婦人ばかり糞をして
懐かしき乳房の重さはや夢か
なんて明るい人斬りの夏
北インド
ウッタール・プラデッシュ州の
首都ラクナウを
北西から東南に流れる
にごり水。
ゴームティー川は
午後のつよい日差しをうけて
にぶく光る。
水牛の群れが土手の斜面にひ ....
いかなる理由があろうと、
人間による人間の殺戮を正当化するわけにはいかない。
そこから発語する、
そこからしか、詩は生まれない。
気の遠くなるような、
辛い、とても辛いことであっても
....
バルザックもゾラもうんざり残暑かな
葉書来て柏木如亭少し読み
ひぐらし旅館ならぬその日暮し
歓喜天どこへ行ったかわが八月
真夏のゴリラ空を見上げて元気かな
人間はへんなことをする。
ぬけるような秋晴れの空だというのに
古いお城に集まって
中世の衣装を着て
お芝居が始まった。
しずしずと歩む男たちの
おそるおそる歩む女たちの
なんという白 ....
西北東三方を山に囲まれ
南東は関東平野に面する内陸県
高崎から下仁田を結ぶ上信電鉄沿線
南蛇井あたりの豪農の何代目かの曽祖父の放蕩がもとで
国を追われて富岡に出てきた祖父徳太郎は
赤貧洗うが ....
打ちっ放しの白いコンクリートの上で
夜明かししたアンバサダーは
太陽の熱に焼かれていて
扉を開けると蒸風呂だ。
エンジンをかけ冷房を入れると
蚊の群れが舞い上がる
慌てふためいて窓を開 ....
一九九〇年一月一六日午後三時三〇分
ガンジス河に架かる浮き橋を渡って
バラナシの町に入ると
古ぼけて崩れかかった石と煉瓦の建物の間の
狭い道路に人が湧いてくる。
インド国産の名車アンバサ ....
一九八九年九月一日のガンジス河は
モンスーンの雨水を集め濁りに濁り
滔滔と流れて行く
ようやく白みかけた空から
朝の光が差し始めると
ガート(沐浴場)に群れ集う夥しい人々がどよめく
....
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