明るすぎる現代風景の空洞
もう失われてしまった闇をさがして
黒い色彩をもとめて{ルビ彷徨=さまよ}う街道
あそこにもここにも光りだけがあふれて
いつのまにか当たり前になってしまった
....
もう六〇年、過ぎて行ったのですね、早くも、
理想を追った仕事師の日々。酒に、そして女にものめり
モリちゃん、ハリー、長い長いつきあいだったな、僕とも。
とうとう還暦祝の日がやって来て、今宵は一杯 ....
受精した瞬間選別される
年老いて死ぬ時にも選別される
優秀な種だけコピーしてふやす
人が生まれ人が生き人が死にます
男の数女の数もおもうまま
ついこの間カミサマが死んだ雲間
ニ ....
老いたるロメオ
命の根源を
回復するためにロメオ
二十四時間を
眠りつづけて浮かぬ顔
麟太郎の幸
『あかるい黄粉餅』
満喫してのち
帰って来た町
秋の日は落ち
....
海の波の音を聴きながら
他愛のない会話をたのしむ
三年目の二人なのだから
空も海も馴染んだアルバム
月光に濡れる椰子の葉叢
思い出すら風景に沈む
寄せて来る海の波さながら
日 ....
イタリーとエチオピアの混血女
闇をたたえる目 かたちのよい鼻
「{ルビ男の子=ムスコ}がひとりいるの」
ジョニ赤のハーフボトルと果物
褐色のぬれるような不条理
ぼくたちは深夜の街をは ....
おれの地獄はいつだって異国の場末
餓鬼どもの中からうまれてくるのさ
地の底をはいまわる畜生の情けの末
涙によごれしらけ顔した修羅のあさ
あまえもおれも人間喜劇の一脇役さ
天上みあげ声を揃えて ....
はじめに
詩人であり『中庭』の熱心な読者でもあるS氏から寄せられた文章を読みました。日本語による押韻定型詩の可能性にたいする根本的な疑問が述べられており、まことに古くて新しいこの命題は常に論じ ....
青い空に満開の桜はらはら散りそめる春
友らがみんなえらくみえおいらはネクラ
それでも今はあかるんでくる季節である
喧騒のオッフィスでひとりしずかに仏頂面
『ローマ帝国衰亡史』と{ルビ睨み競=に ....
モーパッサン『女の一生』一冊鞄に放りこんで
矢も楯もたまらずナリタを飛び立った
あたらしい眼鏡がなじまないので
いらいらするしエコノミーの狭いシートもきつかった
そのうち左手親指つけねがい ....
明けても暮れてもジューセンいかにせん
つついてもつついても藪の中 悪い奴ほどよくねむる
背広とネクタイきちんとしめての総力戦
おれのせいじゃあないおれだけはと生き残る
だれもかれも似たよう ....
無罪放免まであと二十六ヶ月かと指を折って
なにやらしれぬなまぬるい監獄暮しの
ご同様のひとびとにまぎれこんで日がすぎて
それでも親子六人がいわうお正月の初物
にぎやかに酒をのんだり餅をくっ ....
生きることに真面目になれない
いい加減ないい気な人生
時間ばかりが流れても治らない痔
慢性的な麻痺が全身にはびこり襲い来る睡魔
こんな筈ではなかったのに糸の切れた凧
うんざりして眺める世 ....
きいろあかちゃいろみどりいろどりあざやかなあき
にこやかなほほえみのかげのにがいおもいに
なぜかめをつぶりいねむりしているような
るいべのとろけるあじにからみつきまじわる
あこがれのように ....
遠い日の雪ふる夜あなたの瞳の中にみた海辺の足跡
理知のかがやきをひめて波間にただようほのあかり
やるせない吐息にうっすらとくもったガラスの部屋
窓に貼りついた蛾の群れが突如としてまっさかさま ....
ひかりかがやく風のとうめいな冷気が頬をなでる
この都会にもあかるい季節がめぐってきた
まつわりつく悪夢にまたしても人々はさわぎたてる
真夏のように感情をたかぶらせみえてこない{ルビ明日=あした} ....
めぐりきた敗戦後五十年目の夏の日々
ひとびとの思い出がいっせいにふきだす
メデイヤにあふれいきつづける酸鼻
あれもこれもみな生の意味を問いかえす
太陽はたなびく雲をとおして下界をこがす
くり ....
あかるい街の季節風
最寄駅の女の脚
スカートの奥の巻封
ひめられたかえらぬ昔
あわてふためいてる尼僧
おちてくる白い襟足
目配せしている名僧
みうごきならぬ猿まわし
おろお ....
長谷川七郎八十二歳の詩集『もうおしまい』
くもり空の伊豆高原で祝いの酒宴をはった
そこには詩人のぶあつい生の風景が舞い
夏の夜はたのしい談笑のうちにふけていった
女流反戦詩人の膝枕はやわら ....
くもり空のおもたい朝
欠伸をしている川獺
頭にかぶっている笠
ぷんと鼻にかおる野糞
きみの眼のまぶしい若さ
よれよれになっている裾
てのひらにあふれる乳房
白い毛の犬がのそのそ
....
風まじりの雨模様に海はのんびりひろがる
はてもなくさわがしい世間をのがれて
ぬれた花崗岩に足をすべらせおもしろがる
生きてきたそれぞれの体型に目がなれて
だまっていてもあたたかい空気にふれ ....
ガラス窓に黄色い熊
緑の幕ゆれる昼間
なんとおおきな図体だ
夏の青空にうかんだ
「全員参加で施設の点検
一人一人の五分間
始業前点検
終業前片付け復旧」
三ヵ月 ....
海
闇の海
闇の海のなやみ
闇の海のなやみの意味
いみ
意味のなやみ
あらゆる意味のなやみをのみこみ
海の波にたゆとう色好み
いろごのみの酒呑み
酒呑みのねたみの厭味
....
人真似の好きな天才稚な顔した細い目の
一羽の鸚鵡が髪ふり乱して沈思黙考の果て
遂に決意したのは消えてしまった空洞の
あの至高の権力者をまねること。かくて
長大な計画は練られ一流官庁企業をあ ....
目からとおくなれば心からもとおくなる
そんなことははなから知っていた
日毎の天災やら人災やらのセンセーショナル
めまぐるしい張り子の国で半年すぎた
乱読につぐ乱読で本ばかり読んですぎた
....
ちょっとあんたまた買ったのむやみやたら
よめもしない本ばかりあふれて気がしれない
バルザック? 二十六冊だって、そこいら
にあったじゃない『従妹ベット』やら『純愛』
荷風やら菊池寛やら小林秀雄 ....
日本の冬はなんともはやうそ寒いし
不景気の師走の街もうっとうしくて
仕事らしい仕事もほとんどないし
飯島さんのせいでバルザックによみふけって
『従妹ベット』おもしろくておもしろくて
ユロ男爵 ....
歩道橋の階段に足をかけたのはもう深夜で
街道をゆきかう車のライトがやけにはやい
ひさしぶりに気分が昂ぶっていてなんで
突然そんなふうになったのか皆目わからない
下半身から力がぬけてよろよろとた ....
ねむれ。
胎児のように、ねむるがよい。
せいけつなみなれた風景の、
すこしばかりの変化など気にせずに。
あわれなものだ。
マルチメディヤとかいうものに
おかされてゆく母胎の中では、 ....
雨季のタレーがなみだつ。かなしみをたたえて、
すぎさってゆく時間をつらぬいて、
浮世のゆれつづける、虚実のいろがみえる。
とおい、タレーのかなたの国へ、ぼくはかえる。
すぐそこにきてい ....
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