夜
荒れ果てた病院の屋上に登り
からっぽの街を見下ろす
一本の蝋燭すら点らぬがらんとした暗闇が広がる
この街は死につつある
病院の各階の二百二十あるベッドは全て閉ざされ
腎臓透析室も実験室 ....
照り返しの眩しい白い階段をのぼる
六六段を数える
栗の木の緑がむせる
コンクリートの階段だ。
後ろを振り向くとまだのぼってくる人がいる。
毎朝沢山の伝票を抱え
昔のぼった経理部への ....
インドの魔術師から花束を貰った夜
僕は何故平安時代の日本にいたのだろう
うら若い細身の美女に囲まれて
宴が始っていたようで
僕はひとりの女を抱き締めている
官能が昂まり思わず腕に力をいれ ....
長男 22歳
卒業研究題目「二次元突起列を有する平行平板間の流動性」序論 実験方法 結果 エネルギー 有効利用 機器 小型化高効率 熱交換機 伝熱特性向上 工学上重要 問題 壁面 伝熱促進方 ....
優雅で端整な コメット
乱暴で大食漢の オランダ
平凡で神経質な 黒出目金
紅白 オレンジ 真っ黒
我が家の四尾の金魚たちを
見つめているときりがない
金魚たちは主の心を映して泳い ....
1
弟悦章は一九五二年四月二九日
英生院法安育徳童男になった。
母こまは一九七九年一二月一九日
淑生院妙玲郁徳信女になった。
父今吉は一九八三年三月二四日
瑞生院法禅嘉徳信士になっ ....
死んだ親父は
一九〇五年一二月二日生まれの
一九八三年三月二四日没だから
享年七八歳であった。
死んだお袋は
一九一二年四月二〇日生まれで
一九七八年一二月一九日没だから
六七年間の ....
お墓参りに行くから早起きしよう
しかも
いつものように バスと電車とまたバス
ということでなく
自転車で行ってみよう。
そのとおり
めずらしくみな早起きした
長男 長女 二男 三男
....
明るい
床の上
人頭大の
石ころが
二つ
向かい合って寝転んでいる。
色違いの格子縞のシャツを着たりして
そのくせ
肉体は
無い。
人は誰も
生まれて
死ぬが
詩人
金 ....
1
薔薇の苗木を一本買った。
生まれて初めて
自分の手で庭に植えた。
木を強くするために
たった一つの蕾を切れと言う
胸が痛んだ。
薔薇の木に新芽がふいて
やがて蕾が三つもつい ....
05:50 目覚ましが鳴る
ピッピッピッ
頭を押すと目覚ましが止まる
ピッ ピッ ピッ ピイ ピイ ピイ
小鳥の囀りにかわる
ぼんやりした靄をつきぬけて
06:00 妻が起きる
06 ....
おとこおんなおとこおとこ と
四人の子らが次々生まれ
奥様大変ですねえ と
まわりのひとはみんな言う
五歳 四歳 二歳 三男坊は七カ月 よくもまあこんなに連れて
はるばると来たものですね ....
人はなぜ恋文を書いたか
体内の炎を紙につけて燃やすため
でもあるが案外
紙と鉛筆がそこにあったから
近頃では
恋人たちはテレホンカードを消費する
電話器は二十四時間鳴りっぱなしで
体 ....
人々が同窓会に出席するのは
みな自分に会いたいからだ
失われた自分自身を確かめたいのだ
それぞれの顔に刻まれた時間を
みつめあい 納得する
冬の夕日が銀色に光る
熱に潤んだ眼がさまよう
四十九年間 無休で働き続けている心臓が
高鳴る
満員鮨詰めの京浜東北線と
鮨詰め満員の山手線電車が
ほとんど同時にホームに滑り込むと
人々はあふれ出て来る
一体何者の意思によってか
もくもくと もこもこと
しつらえられた階段を登って ....
何処か知らない 浜辺
の砂の上に座りこんで ぼんやり
海を眺めていたようで
すぐそこの岩屋の蔭
から蟹が一匹
ちろっと動いた ように感じて
眼を凝らそうとしている
つもりが逃げ ....
おとこと
おんなが
ねている
おとこがめをさます
おんなのはらにてをおく
そっと
おとこのてのひらに
やわらかいあたたかいおんながつたわる
てがうごき
おんなのちゅう ....
疲れた体を横たえ雨の音を聴く
水音の底から甦るいのちは
限りなくやさしい
長かった旅の終わりに向かって降りて行くとき
人はなぜ柔和な表情になるのだろう
暖かいビロードを愛撫するように ....
ぼくは大道に投げ出されたGARASUDAMA
多面体のよく肥ったGARASUDAMA
鈍い膜で覆われたGARASUDAMA
そこに世界がうつる
GARASUDAMAは無思想無宗教無節操 ....
フィリッピンの
バタンガス地方
カラカの
小さな漁村が消え
三〇万KW石炭火力発電所 出現
あつい日盛りで
海には風もない
遥かセミララから
ふるぼけた石炭船が着いて
なんに ....
北京秋天
見上げる空はひたすら青い
空港へのびてゆくまっすぐな道
あかしや ぽぷら まつ 三重のトンネル
豊かにひろがる畑
樹木に囲まれた家
点々と
丸くなる地球
ビール 白ワ ....
「詩」でっていうのはなかなか難しいから(時間がかかりすぎるだろうから)雑談風に。
1:机の上には,なにがありますか? (理想でも可)
読もうと思って買った本の山。
読む速度が、読みた ....
ロンドン リージェントパーク アルバニー通りの僕のホテルと
ハウランドストリートは
市街地図では同じH3の桝目の中で
日曜日の朝早く 僕は出かけた
地下鉄ポーランド駅の裏通りを
茶色 ....
舞台の中央には透明な攪拌機がありまして
僕によく似たピエロが登場します
ピエロは無言で虚空を凝視めると
両手をひらひらさせて様々な八月を取り出します
粗末なリュックに詰め込んだサツマ芋 ....
高校時代といえば
一九五三年 一五歳から
一九五六年 一八歳までのたったの三年間なのに
そこには僕のカオス 大袈裟にいえば
天地創造の混沌があった
頭の中は吉川英治から太宰治へと
....
生まれた街は遥か遠い被膜に遮られ彼方に霞んで
そこに戦火があり七歳の僕は大人たちに囲まれ鉄
路を支える土手に鍋を被せられて伏せ夜空は花火
大会のように明るくて騒がしいその夜焼け失せてし
まった ....
ゆいごんじょうをかけという
まいにちまいにちゆいごんじょうをかけという
ふるほんやにいっていっさつひゃくえんのぶんこぼんをかえという
まいにちまいにちかえという
びょういんへいけという
でき ....
アブシの涙を忘れない
ミスター・アブシの
ベイルート市
ハムラ通りを
エトワールから海岸通りに向かって行くと
左に折れる路地があり
道なりに坂をだらだら登って行くと
右手にケントホテ ....
時代遅れの政治家並に肥満して
申し分ない冷暖房付の部屋に
横たわり 詩をつくるその男の 別して
濁った目と憂鬱な顔こそ 思うに
現代詩そのもののありようとは言える。
ありふれた喫茶店の ....
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