夏の日 帽子を残して
水平線の先が見たいと少女は
夕焼けが水面を染める
裸足で砂を踏みしめると
体温によく似ていることすら
知らないまま
空との区切りが曖昧だから
触れてはいけな ....
魚になって
私は、って
言うと呼吸ばかりして
じっとして動かないで
水面を知らないみたいで
もがきもしないでいて
心臓がいつもよりは速くて
手で掴んで
昨日の断片を拾えたら良くて
そ ....
揺れる
カーテンの裾の
ほころびに揺れる
春と呼ばれた香りが
部屋の中で静かに声を潜めて
消える
まばたきの間に
ひとつ、ふたつと零れる花びら
風が
新しい季節が来ることを告げる ....
朝食は要らない
体と私が切り離されたような
錯覚よりも確かな感覚に
足を捉われながら
歩かなきゃならない
落書きのような歌を聴きながら
心を発しないように気をつける
つぶやいた言葉は ....
足りなかった言葉を
埋めるものが見当たらない
思い出を引き合いに出しても
それはもう終わって閉まった言葉
いつか折れてしまった
あの桜の木の枝が
足りない、足りないと 泣いている
....
おかえりなさい。
あなたは部屋に帰ると
私のことなんか目もくれず
あの子の体に真っ先に触れる
私がいくらすねたって
どんなに泣いたって
見向きもせずに
最近のお気に入りはもっぱらあの ....
あの人は私を呼ぶ
名前ではない 記号のような音で、
私は歌わなければならない
縛りつける鎖が痛みを伴うので
切ない声を あの人は悦ぶ
灰の壁に囲われた箱の中
羽根はとうに千切られてしま ....
溜め息しか
吸い込んではくれない
空をかたすように
塵や雲の類で
すっかり狭く
小さくなってしまった
あれは
祈りなんて
聞こえないくらい
遠くなってしまったから
また溜め息一つで ....
さよなららいおんが
動物園でさよなららいおんって
呼ばれるわけはちゃんとあって
誰かが夜の隙間で
長い眠りについたとき
悲しそうに 泣くからなんだって
だけどやっぱり
みんなはら ....
カーテンの外で
もう明日が始まっている
私は今日すら消化できないまま
部屋の中で立ち止まる
こんなに簡単に
昨日は手に入るというのに
狭い部屋に溢れかえって
いつまでも抜け出せない
....
たとえばそこに私がいるということ
炭酸水の泡の中に私がいるということ
生まれては消え消えては生まれる
連鎖する中にほんの一瞬私が見え隠れするということ
たとえばそこに私がいるという ....
うたをうたう さよならのうた
少女がうたうさよならは
やがて風になる
吹き抜けては行くけれど
誰にもうたは聴こえない
今日もうたう少女はさよならを履いて
終わりに流れついた誰かのもとで
....
さっきからヤギが
書いた詩書いた詩を
遠慮なく食べてしまうので
一向に進まない
今日までに仕上げなければ
いけないというのに
ヤギはお構いなしに
食べる 食べる
おいしそうにしているの ....
あの人が
行ったっきり 帰ってこない
消えそうな足跡を辿っても
いつだって
私の足元に戻るばかり。
夕暮れに佇むと
二度と動き出せない気がして
振り返ることもしない
あの人 ....
想いを残したい、と
言葉を紙きれに書いては
それを二つ折りにする
こうすればいつまでも色褪せない気がするでしょ
とかわいらしく笑うと
今日も君は紙を折るものだから
机の上はいつも君の想いが ....
アリシエール
私に声はない
ここから動けもしない
空っぽの体の中心に
それでも心は一人前に持ち合わせてる
アリシエール
私は綺麗な淡い色のスカートを
ひらひらとなびかせる ....
泡になりたい
そう望んだのは十七歳 夏の日
ラムネの底から生まれる
消える気泡に見とれて
曖昧な私も溶けてしまいたい
いっそ
いつか
本の一部を鋏で切り取った
一片一片を繋ぎ合 ....
今朝から元気な
うさぎは雪で出来ていた
おはようと声をかければ
おはようと返してくるし
動けはしないものの
今日も元気でいられることは
いいことだ。
うさぎは冷凍庫で冷やしてやると
....
つきはなく
ほろほろと
こぼれるよる
さらさらと
はしる少女
かぜをまとって
だれにもはなさず
だれともはなさず
ひとりきり
よるをいく
つきがなく
よるにひっそりと
さみしく ....
ポチ
あたしに名前をちょうだい
できるだけ覚えやすい
あたしの名前は
とうの昔に
風に飛ばされてしまった
決して飛ばされることのない
首輪のついた名前を
それは
....
最近髪が伸びましたので
結ぶことにした訳は
風が吹きますと
折角の春の香りが
あなた様に見せるその前に
遠くへと
飛んで行ってしまいそうに
感じるからでございます
よく見ますと
....
あいうえおがなくなったら
たいへんだ
あいうえおは
かきくけこでもあって
さしすせそでもあって
いっぱいでたくさんだ
あいうえおがなくなったら
、とか。とかそういうのしかなくなる ....
お月見の日に
呪文のように祈りを囁くと
願いが叶いました
という噂を耳にしたので
信じて囁いてみたところ
私はにんげんになれました
でも気になることがふたつだけ
しっぽとねこ ....
うたかた
泡となって
消えないよう
輪郭を撫でる
せめて
触っても
壊れない程に
うたかた
私によく似ていた
静寂に
手のひらから
生まれた 蝶
....
懐かしい
匂いに誘われ 絵本の中
誰もが出会った おとぎの話
枕もと
遠くで眠りへ 誘うのは
魔法使いの ひとりごと
眠り姫
愛し ....
しなもん
ひとりぼっち
ミルクティーを入れてみた
しなもん
いつもよりお砂糖多めに
甘くしてみた
しなもん
くるくるくる、と
まるを書くシナモンスティック
し ....
夕暮れが寂しい
このままどこにも
辿りつけなくなるくらいに
あたしを取り囲む橙
このまま真っ直ぐに歩いて行けば
あなたに会えるはずなのに
出来ない
あたしの 弱さ 悲しい ....
お月見て うさぎに恋し 猫は鳴く
にゃあにゃあ僕も 餅つきたいにゃあ
ねぇねぇと
意識を揺さぶる ひつじたち
ねぇねぇそろそろ 寝かせてほしい
ゆ ....
ほたり ほたりと
流れていくものは
私の涙では ありません
手のひらに掬えば
ほんのりと色づいて
これは 紛れもない
星の溶けたものなのですよ
一粒 拾ってごらんなさい
....
知らないとしか
答えない人がいる
知ってることも教えない
ただ自分で探してごらん
ということは教えてくれる
自分で答えを探すことが
どんなにせかいを楽しくさせるかを
その人は知っている。 ....
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