せっかくの日曜なのに
私には描ける絵がない
私には筆がなく
私にはカンバスがない
私の街には森がなく
湖がなく
私の家のキッチンには
新鮮なオレンジも
燃えそうなリンゴも
清楚な百合 ....
こんな日曜はめったにないから
いつだって
口を開けているのは月曜だから
目を閉じて口笛を吹いている
僕は思った
先日死んだ画家のこと
同僚に贈る水色のネクタイのこと
バスで旅する芸人のこ ....
今日は平日
お別れした日
途方もなくて
言葉が上手く出なかった
星空が澄んでいて
呆然と眺めていた
しゃべれないけものみたいに
あまりにも
痛かった
いたかったの ....
アパートの一室に
紳士が帰宅する
革靴を投げ捨てると
ガポッと悲しい音がして
玄関に落下する
男は風呂場の蛇口を捻る
じょぼじょぼと
悲しみがあふれ出し
すぐに浴槽はいっぱいに
そこ ....
アミマは十三歳の少女
人口百人足らずの
山奥の村に住んでいる
学校には行かず
というか学校はなく
日中は家の仕事を手伝ったり
弟や妹の面倒を見て過ごす
楽しみといえば
時折ラマの背に乗 ....
会いたい
少数民族に
どんな衣装を着ているだろう
どんな髪飾りしているだろう
どんな夕食を食べるのだろう
どんな子守歌うたうのだろう
どんなけものの背中から
どんな朝日を眺めるだ ....
五月の風の透明さ
雨上がりの石畳のにおい
雪の朝の静寂
足元をさらう波の清廉さ
出発前夜の胸のざわめき
日曜午後のあきらめにも似た安らかさ
わからなすぎる夜の身もだえ
泳いだ後の満たされ ....
「ほんとうは何処にある?」
探しても見つからない
探し続けるためには
生きねばならない
だから仕事につき
いつしか妻をめとり
まもなく子が産まれ
ようやく家を借り
中古車を譲り受け
....
何をしても悲しい
悲しすぎて何も手につかない
俺はろくでなし
悲しむために目を覚まし
悲しみながらパンを食べ
枕を濡らして寝てしまう
いつのまにか
一匹の犬になっている
明後日の方角に ....
一 世界の終わり
世界が終わるという予言を
紹介するテレビ番組を見て
下の娘が心配している
「ねえー、終わらないでしょー?」
ぐずぐず絡む娘をあしらいながら
妻は蒲団を敷いている
....
世界が終わるという予言を
紹介するテレビ番組を見て
下の娘が心配している
「ねえー、終わらないでしょー?」
ぐずぐず絡む娘をあしらいながら
妻は蒲団を敷いている
上の娘は気にせぬ素振りで
....
私のてのひらの雨雲を
誰かに届けるために
来たのかもしれない
役割は
私が与り知らぬところに
あるのかもしれない
笑うかもしれない
怒るかもしれない
まっすぐな犬のように ....
猫になる理由は無数にある
仕事がイヤになったとか
満員電車がツラすぎるとか
一人になりたい時があるとか
どこかに行ってしまいたいとか
生きてく理由がわからにゃあ
どうするべきかわから ....
君と夜更かし
君と猫じゃらし
君と雨ざらし
君と市中引き回し
君とおかまいなし
君と御伽草子
君と裏返し
君とアメフラシ
君は幻
わからないという名の猫を
飼うことにした
どうしてそんな名をつけたのか
さあ、どうだか
神様だってわからない
テレビを見ながら政局に毒づくと
その猫がにゃあと鳴く
娘に大事なことを言い聞 ....
バイパスを車で走っていると
右手から
白い猫がとび出してきた
ひいた!と思い
急ブレーキをかけた瞬間
左手の方へ
黒い猫が走り抜けていった
不思議に思いながらも
安堵して
私は車を走 ....
まよなかに目覚めて
眠れなくなることがある
ピストルでも撃とうと二階へ
ぼんやり階段を昇っていくと
どうしたことかいつまでもたどり着かない
奇妙に思いながらも昇り続けると
いつのまにか階段 ....
あなたが帰ってくることを
知っていた人がいる
昔の言葉で話しかけると
昔の言葉で応えてくれた
言葉が変わらないということは
思いが変わらないということだ
なぜなら言葉は ....
彼の仕事は予言者らしい
けれど寡黙な人だから
予言の中身は教えてくれない
窓際で涙ぐんでいるのは
悲しいことを察知したから?
血相変えて外に飛び出したのは
大きな事件を察知したから ....
炊飯ジャーのアラームが鳴る
私は手を洗う
冷蔵庫から卵を取り出し
賞味期限を確認
茶碗のふちとかちあわせ
割れない程度にヒビを入れる
握りつぶしてしまわぬように
卵を割り茶碗の中へ
菜 ....
星盗人が出た!
そんなチラシを受け取ったのだ
二人は顔を見合わせる
確かに夜空には星一つ見えないが
薄雲か気候のせいでは
チラシを配っている男にそう言うと
全く取り合ってもらえない
それ ....
雨が降り出した
街が洗われる
忘れた方がいいことが
無数にあった
手を挙げてタクシーを停める
肉球は見えないように
行先を訊かれて
nearと答える
「外国の人?」
車内では
天気 ....
朝には鳥で
夜には魚
難しい少女のように
表情が変わるのだ
泣き顔は泣き笑いに
(そこから歴史)
笑顔は笑い泣きに
(そこから歌詞)
可能性は不可能性に
(そこから川が)
....
人づきあいは苦手ゆえ
頭に猫をのせることにした
出会う人たちは皆
頭の上の猫に気を取られ
(毛並みをなで
喉をなで
さかんにじゃらし)
私のことは気にも留めない
そのすきに私は
....
本当の靴を履いていますか
本当の街を歩いていますか
本当の虹を見かけましたか
本当の人と出会いましたか
本当の夕焼け眺めましたか
本当の夜を過ごしてますか
本当の星を探していますか
本当 ....
イブの夜
イエスが店にやってきた
長らく預けたままだった
聖骸布を引き取りに
「お客様、すみません
こちらについたお顔の跡は
どうしても洗い落とすことが
できませんでした…」
イ ....
読書をしていると
知らないうちに
黒猫が膝の上に
男は一瞬たじろぐが
撫でてみると大人しくしている
そのうちに猫の毛並みは変化しはじめ
白い猫へと変わる
白猫はひょいとテーブルに飛び移り ....
TSUTAYAにビデオを返すついでに
夜明けの花を摘みに行く
それはとてもほんのりと光って
摘み取るとすっと消えてしまうけど
比喩の袋を持ってきたから
あいつに届けてやれるかもしれない
....
愛を無駄遣いするの?
捨てられた犬のようになるの?
背中が水玉模様なのは雨雲に射抜かれたためなの?
だだだだだだだ、と?
だだだだだだだだ、と?
後悔することもあるの?
ふりだしに戻りたい ....
遠くまで行く途中
だから気にしないで
時に狐の目をすることや
雲の形につまずくことを
大事なことは誰にも聞かない
大事なことは口では言えない
あといくつ黄色い蝶がいれば
韃靼海峡を渡れる ....
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