日付を打たない手紙/藤丘 香子
 
かつて潔く閉じた手紙は風を巡り
伏せられていた暦が息吹きはじめている

朽ちた扉を貫く光は
草の海を素足で歩く確かさで
白紙のページに文字を刻みはじめ
陽炎が去った午後に、わたしは
あなたの覚醒をみている

いくつもの雨を見送り
落水に象られながらしぶきを通り抜けた
片目をつむる空の向こうに真昼の船が見える

夏に踊る つかめない海鳥
甲板のまどろみ
ハンモックに眠る捨てられない写真
時計を回したパラソルに八月の陽射しが透けて
真夏のタトゥーを滲ませていく

レモンを齧ろう
陸に抱かれた船頭から迸るように飛び降りて


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