喫煙のこと/はるな
たのだが、そこでは叔父のまえにはいつもガラス製のおおきな灰皿があった。おおきな、透明な、どっしりとした。それを触るとあぶないと叱られた。それから、恋人もたばこを吸う。空気のようにそれを吸う。わたしはたばこを吸ったあとの、恋人の右の人差し指と中指のにおいをかぐのがとてもすきだ。
喫煙をやめるのには、喫煙をはじめたのと同じくらいに理由がない。ただ売っているからと吸い始めた喫煙が、すぐに習慣になり、そしてこんどはとくに吸う必要もなくやめてゆく。
なにかをはじめたり、やめたりするときに、表立った理由がみつからないというのは、一番よい理由のように思える。なぜだかわからないけれど、それをする必要がある
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