雑談スレッド4[143]
03/30 20:03
佐々宝砂

もひとつ自動ドアに関するむかしばなし。

といってもこれはそれほど大昔ではなくて五年ほどまえのこと。ところは某工場。ラインのいちばん後ろで、商品入りの箱をパレットに積み上げ、ハンドリフトでぎこぎこ持ち上げようとしていたら、私の目の前の大きな自動ドアに、乗用フォークリフトが突っ込んだ。ドアの前には人がいて、その人はフォークリフトがぶつかった衝撃と、その衝撃によって割れたガラスの雨を両方ひっかぶることになった。血が飛び、ガラスが飛び、しばらくの無言の後、怒声があちこちから飛んだ。私はハンドリフトから手を離して惚けてしまった。フォークリフトが突っ込んだ瞬間、透明な自動ドアのガラス片が舞い散って、それはそれは美しかったのだった。私は五分くらいのあいだ、仕事のうえでまるで役立たなかったとおもう。フォークリフトに乗っていた人は軽傷、自動ドアの手前にいた人は腕と指を骨折、ガラスによる切り傷多数、だった。労災なので、あとで検証をしなくてはならなかったが、私はいちばん近くでみていた目撃者にもかかわらず、多くの証言をすることができなかった。事故の原因は、リフト運転者の不注意と、理由もなく(本来はちゃんと動作するようにしておかねばならない)自動ドアのスイッチが誰かの手によって切られていたことだった。

私は、いまはじめて、そのとき割れたガラスが美しかったということを人に言う。ある意味で恥ずかしくて言えなかった。美しいだなんて、言ってはいけないような気がしていた。9.11テロの映像が、青空に映えて美しく見えてしまったとき、私はあの美しく危険だったガラス片の舞を思い出さずにいられなかった。
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