夢を見たら書き込むスレ[86]
04/17 17:28
佐々宝砂

生まれてはじめての体験をした。長生きはするもんだ。といっても夢のなかでしたのかなんといっていいかわからないが、とにかくこれは「体験」であった。一冊の本を読むことが「体験」であるという意味において。

建て直す前の私の実家にいて、家族が揃っている。祖父(釣りキチ三平の一平じーちゃん似)、父(ものすごくだらしない藤田まこと)、弟(元ジャニーズ系美少年。最近はみてないので知らん)、母(オノヨーコそっくりさん)。和気藹々とキッチン兼食卓にいる、ところがどっこい、テーブルの下に十数匹の猿がいる。タマリン系統の顔したかわいめの猿だがニホンザル程度に大きい。日本の猿には見えない。その猿どもがウ○コしたり病気になってるらしく寝込んだりキズを負ってるらしく血を流したりしている。元気な奴は騒いで家具に登ったり床を剥がしたりしている。この状況に祖父だけが怒った。やめろ!と一喝したが相手は猿なので言うことをきかない。祖父は立ち上がって台所から出て行こうとする猿を阻止するべく、台所からの出入り口をふさぎ始めた。せめて被害を台所だけにとどめようという心意気。さすが私のじーちゃん。しかしそこでふと気づいた。

私の祖父は亡くなって数年。死んでるのだ。死人が元気に動いてるからにはこれは夢だろう、夢に違いないと思い自分の頬をつねった。なんだか微妙に痛い。痛いような気がする。もうすこし強くつねった。微妙に痛い。なぜなんだか痛い。夢なのだろうか、夢だと思う、だが夢だという確証がほしい。頬をつねって微妙に痛いのでは確証にならない。仮にこれが現実ならどうするだろうかと考えてみた。動物園か警察に電話するべきである。あきらかに日本産ではない猿が十数匹跋扈しているのだ。そこで母に、警察に電話しようよと言ってみた。電話番号知らないもんと母が答えた。いくらなんでも私の母はこんなアホではない。父は知らん顔して新聞を読んでいる。弟は猿をいじめている。

たとえ夢であろうと現実であろうとこの状況は、私、好かん。と思ったので、別な部屋に行くことにした。現実の私の家であれば、隣にあるのは廊下でその先に私の個室がある。ドアを開けたら私の部屋、のはずだったが、そこには大伽藍があった。東南アジアの寺院のようにド派手な伽藍で、仏像まである。いくらなんでもこれは夢だ。こんなシュールな現実があってたまるか。また頬をつねってみた。痛い。はっきり痛い。夢の中では痛覚を感じないはずだ。なんでだ。伽藍には海に向いた大きな舞台のようなものがあって、そこでまた私の家族が食事をしていた。中華のいちばん贅沢なコースといった雰囲気で、個々人の皿に調理された猿の頭がある。頭骨の上部が剥かれて脳が露出している。それを食え、というわけだ。猿の脳みそは一度食べてみたいけれど、それよりなにより私は、これが夢だという確証がほしい。こんな現実はあるわけがない。でも私はこれを夢だと確信することもできないのだ。

と悩んでいたら、天啓のように素敵な考えがおりてきた。飛べばいいのだ。現実なら飛べない。夢なら飛べる。何も高いところから落ちなくてもいい、飛ぼうと思って床を蹴って、それで飛べたら間違いなく夢だ。床を蹴った。飛んだ。重力なんてものはこの世界にないのだ。ものすごくほっとして、ものすごく嬉しかった。これは夢なのね。そう絶対に夢。みんな夢、雪割草が咲いたのよ。伽藍のなかを飛び回りながら私は母に言った、「これは夢、夢なんだよっ」そのあと私の母が「あんたにはね」とか言ったらすごく面白いオチになるのだが、そうはいかなかった。私は母の返事をきかず目を覚ましたのだった。

夢か現実かわからなくて悩んだのは、生まれてはじめての「体験」であった。そう何度もやりたくない。一度で充分だ。ところでなぜ頬が痛かったかの理由をまだ書いてなかったね、すごく馬鹿馬鹿しい話だけれど目を覚ましたら、口内炎ができていたのだ。口内炎は痛えよ。
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