しりとりの詩 2nd[370]
2008 05/01 00:39
mizu K

「星の流れる音をききませんか?」
そう誘われたのは中2の夏休みに入るすこし前で
クラスでは口裂け女の話が大流行していたころのこと
夏休みになってから、誰もいない夜の校舎の中庭に忍び込むのだという
中庭の池にはなぜかミロのビーナスがでんと立っていて
ばつゲームとかで彼女に抱きついてくるというのがあったりなかったり
夜な夜な腕がにょきにょき伸びてひひひと笑いながら中庭を走り回っていて
その声を聞いた者は3日以内に発狂して死ぬとか
妙にリアルに想像できる七不思議がまことしやかに語られたりして
はだかの女のひとを直視するということに羞恥のあるうぶなお年ごろとしては
実は彼女をしっかと見つめたことはなかった
その人がいうには、ビーナスの足もとにはってある水に星の流れがうつると
星の音がなんともいえずうつくしく響くのだ、というその誘いに首を縦に振ったのは
もちろんどんな音かきいてみたいと思ったけれどもうひとつ
ビーナスを見つめる機会ができたということもあったけどそんなことは
口が裂けてもいえなかった/けれども
その年、夏休みは来ず
その人も流れ星のようにあとかたもなく消えそれから
ただ延々と水一滴もなく極度に乾燥した砂漠を歩くような日々が続くのであった
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