【期間限定~9月15日】『夏休み読書感想文』[2]
2017 07/31 23:27
ふるる

毎年楽しみにしています(^^)規定はなくなったのですね。文字数もいいのかな。


『マルテの手記』リルケ著 大山定一訳 ㈱新潮社 

尊敬する詩人が、詩集のあとがきに「一冊の本と言われたら大村定一訳『マルテの手記』」と書いていたので、読んでみました。
作者で詩人のリルケは400頁に満たないこの小説を書くのに7年かけたそうです。その後真っ白に燃え尽きて、15年も詩が書けなくなっちゃった。死や愛や詩についてのすごく濃い内容です。色々な出来事が特につながりもなく出てくると言う、当時としては新しいコラージュ的手法で書かれています。
内容は、マルテという作者の分身と思われるデンマーク出身28歳の詩人がボロアパートに住み、パリの街をほっつき歩いたり、思い出に浸ったり、昔の伝記を思い出したり、というもの。

で、読んだ感想は、なんかすごかった!

まず、リルケの詩人としての表現の巧みさ。「花園の花々がようやく目をさまして、一つ一つびっくりしたような声で『紅い』と叫んでいた」(p25)とか。
後半なんかそういう素敵比喩がこれでもかと出てくるので、うわ~リルケすごーい。訳者もすごーい。の連続なのです。

そして、マルテの情緒不安定的アップダウンの烈しさ。急に「(僕なんか)なんでもないじゃないか」と叫んだり、元気に外にでたら、すぐ、しゅーん。となったり、熱っぽくヴェートーヴェンを賛辞していたと思ったらホームレス(多分)の後をつけ始める。面白い人。マルテが出会う、盲人や舞踏病やホームレスの人、病院の病人などを観察するある意味冷徹な目も、同情も共感もしてなくてよいですね。

そんな中でお母さんとのほんわかエピソードが随所に挟まれます(リルケ自身は母親を恨んでいたらしいので、ちょっと切ない)、食事してたらその家で亡くなった幽霊が入ってきたり、犬が主人の幽霊を喜んで迎えたり、死を感知して、追い出すために吠えたり、「主人のくせに死を追い払えないのか」とマルテを睨んだりという不思議な体験も。犬かわいい。
それから、孤独な人を褒めたたえる言葉。リルケは、『若き詩人への手紙 若き女性への手紙』(高安国世訳 新潮社)の中で、何度も、しつこく、「孤独を愛しなさい」と若い詩人にいっています。
あと、愛するのがよくて、愛されるのはダメ、という考え方で、「俺を愛するなー」と地面に突っ伏す人のこと。

貧しい人、病人、愛してくれる人のいない孤独な人に、何らかの慰めを与える小説とも言えます。病気の時に孤独を感じる話なんか、すごく共感できる。
全体暗めではありますが、テーマは「生きにくい世の中でどう生きるか」で、詩を書く人だったら、詩や詩人への示唆に富んだ文章も豊富だし、楽しく読めると思います。「よく見る」って、私も大事だと思います。

好きな言葉があったので引用して終わります。

「けれども、マルテ、お前は心に願いを持つことを忘れてはいけませんよ。願いごとは、ぜひ持たなければなりません。それは、願いのかなうことはないかもわからないわ。けれども、本当の願いごとは、いつまでも、一生涯、持っていなければならぬものよ。かなえられるかどうかなぞ、忘れてしまうくらい、長く長く持っていなければならぬのですよ」(マルテの母の言葉)(p105)
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