【期間限定~9月15日】23歳以上の人の『夏休み読書感想文』(原稿用紙3枚)[14]
2015 09/15 23:59
nemaru

ホテル・ニューハンプシャー 上・下巻 J・アーヴィング 中野圭二訳 新潮文庫



ちかごろ仕事でやりぬく力、つまりバイタリティや信念が足りてない。それで小林製薬の亜鉛の粒を飲んでみたり、この本の語り手(ジョン・ベリー。祖父に重量上げを教わる。得意技はベアハッグ)と一緒に筋トレをがんばりながら読んだ。

あらすじは、すごく簡単に言うと、やたらとホテルを作りたがるおやじに振り回される家族の話だと思う。

会社でも原理のよくわからないおやじがたくさんいて、よくわからない原理で動いていて非常に迷惑しているが、その源は何かと考えることは多い。会社の項目にはリーダーシップとか自己実現とかいう、言葉にするとさもありそうだが実際の根っこを掘り起こしてみたら、空疎かグロテスクにしか振り切れようのないものがずらりと並んでいる。

この本では、その「おやじ」の謎を周縁から丁寧に掘り起こそうとしているようだ。必要なものがレシピにして書いてあるわけじゃないが、必要なものが何かというヒントは書いてあるような気がした。

信念といったところで、最後の最後のほうが支えきれないと思う。自分で結んだものがほどけないわけがない。もっと朦朧とするか、無意識が必要だと思う。もともと単純作業から入った叩き上げで、特に野山を駆け巡り、ごっこ遊びをして基礎力を蓄えたわけでもないから、考え方をシフトしていかないと、早晩くびにされてしまうだろう。

そんでマネジメント理論がいるなと勉強してみても、結局のところ、人がどういう理論で動いているかなんて謎だと思う。そりゃ問い詰めるとどこまでも言葉でそれらしく逃げていくようにも見え、寝る前には核心なんて何ひとつないと思うのだが、ニヒルでも立ちゆかない。底でカツンとなる必要があると思う。

本書では「開いてる窓の前で立ち止まるな」という言葉が何度も繰り返され、島田紳助も昔テレビで「自分がホテルの窓を開けるかもしれないので、窓に近づけない」という話をしていたし、ぼくらも奇遇にも「アイキャンフライ」と書き込む世代であり、アニメのオープニングは不用意に空を飛びすぎているようにも見受けられますが、それは実際飛ぶわけではないけれども、別に夢は見てないという言い訳のようなものだろう。

じゃあ夢を見なきゃいいのか? 窓の前で立ち止まらなきゃそれでいいのか? とも思うのだが、そういうのは再帰性という言葉とも相性がいい。なんべんもふりだしに戻って意味を考え、前に進まない。そりゃ困ると思う。あれもしたいこれもしたい。

この本を読むと、倒さなければならない人物がひとりふたり思い浮かぶかもしれない。そしたらその人は倒さなければならない人だと思う。私の場合は古谷実「シガテラ」の登場人物になぞらえて「谷脇」と呼んでいる人物がそれだ。彼はチッパー・ダヴに似ている。

人生でなくても、会社でも「開いてる窓」の前で立ち止まる人というのはいるだろう。どの段階でも「やめる」ことの前には窓が開いているものだと思う。

後半になるとある詩人の詩が引用されるようになる。それはまだ英語で、英語を読んでみようと思うようになった。

読んでて思い出したのが、山本直樹の「ありがとう」という漫画だった。
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