【期間限定〜9月15日】23歳以上の人の『夏休み読書感想文』(原稿用紙3枚)[28]
2013 09/16 01:02
田代深子

スコット・フィッツジェラルド 著/野崎 孝 訳
『グレート・ギャツビー』
新潮社発行(2013年5月) Kindle版

 特筆すべきは、これが私にとって小説の電子書籍初購入であったことだ。コミックはすでに購入経験があるし、長文をディスプレイ上で読むのも慣れている。しかし電子書籍アプリ対応に組まれた、文字モノの、特にモバイルでの読み心地はいかなるものか。興味はあったが、いざ買ってみようと思うと意外に手が出しにくいということを、私のみならず多くの人が経験しただろう。
 たとえば電車の中で読みたいと思った吊り広告の新刊、どうせ一読で本棚の肥やし、電子書籍なら…と手元のスマートフォンで検索しても、ほとんど見つけることはできない。新刊が紙・電子同時発売されることは少ない。権利問題や、紙版需要とのバランス、製作費との折り合いが未知数で、出版社もやりにくいのだ。それで「電子書籍はいい本がない」とマンガ以外の需要が上がらず、出版社はまた慎重になる。そのようなすくみ合いが現状と言えるだろう。すると、電子版で手に入りやすいのは以下のような本となる。
 ・これまでは雑誌掲載限りだったが電子版なら個別作品で販売でき、場合によっては著作権料もなく、媒体の性質からも需要の高いエロ系コミック・小説
 ・著作権問題のない(了承済)マンガ作家の、売れ筋あるいは紙版品切コミック
 ・電子書籍への抵抗が作家・読者共に少なく初版からほぼ置きっぱなしでよいライトノベル
 ・すでにそれなりの話題性や知名度はあるが紙版増刷リスクの微妙な実用・ノンフィクション既刊書
 ・長期売上実績があり著作権問題のない(了承済)作家の小説既刊書
 ・権利問題がなく(版権・著作権切れ)「出版しておくべき」古典
 と、なにやら薄暗い雰囲気。しかし逆に読者としては上記のような本なら、電子書籍を購入しやすいと考えればよい。電車の中でダウンロードし、すぐに読み始めることができた時には、これはいいと思った。コンテンツに買いたいと思う作品がありさえすれば(一番の問題)、もっと楽しめるようになるだろう。あとは画面サイズや文字サイズ調整に自分が慣れることだ。ページをぱっと戻せないこと、書き込みできなことはメディアとして本質的な難点と言えるが、それは紙の本の体積が無化できないのと同じである。
 ここでやっと登場。かの「華麗なるギャツビー」は、電子書籍で購入するにはもってこいの作品と言えた。20世紀アメリカ文学の最高傑作と称賛され、何種もの翻訳があり、映画化、舞台化も何度もされた古典。が、正直言って、あまり感銘を受けることなく読み終えてしまった。読みなれない電子書籍のせいか? 私が村上春樹作品を読みすぎたからか。
 しかし印象的な場面が3箇所ある。ニックがブキャナン家の客間に初めて通されたときの情景描写、「灰の谷」の描写、そしてギャツビーのパーティ客が自動車をぶつけた後の一幕。いずれもフィッツジェラルドが優れた作家としての力量を示す場面であろう。
 紙の本、それも美しい装幀、好みの紙質であったらもっと感動したのだろうか。わからないところだ。そうした環境は読感に必ず影響する。だが電子版でも紙版でも、きちんと本質は読み取りたいものだとは思う。
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