【期間限定〜9月15日】23歳以上の人の『夏休み読書感想文』(原稿用紙3枚)[16]
2013 08/25 16:35
ふるる

こんにちは。参加させていただきます。

『abさんご』黒田夏子著を読んで

 評判どおり、横書きでひらがな多すぎで持ってまわった言い方で一文が長い。読みにくさMAXです。でも、苦労して読み終わった後は読みにくさこそこの小説の要であると理解したし、「なんだか面白かったー」という感想を持ちました。

 まず、客観的かつ断定を避けるような書き方と、固有名詞のなさ、人間関係や職業について奇妙な言い回しを使っているので、自由度が高い。受け身の多様によって「こう思った」は「こう思われた」「こうした」は「こうされた」となり、登場人物の本当の気持ちは隠されている。かくしてない時もあるけど。あと、たとえばお手伝いさんのことを「家事がかり」と書いてあるので、読む方は「家政婦」「お手伝いさん」「使用人」と好きに解釈して読める。子供のことも、多分、性別は書いていなかったと思うので、娘とも息子ともとれる。(私は途中まで息子だと思って読んでいた)トカゲかヤモリのことを「草むらをひかりぬけていく小型の有肢爬虫類」なんて書いてあって、どっちかなとか思います。例えて言うなら英語の原書を読む時、セリフは好きな話し方を選んで読みますよね。(俺、でも僕、でもよい)あんな感じ。
 二つ目には、お手伝いさんが家の中に浸食してきて嫌だなーという気分がものすごく持って回った言い方で丁寧に、ゆっくり読ませるように書いてあるので、ほんとにいやーな気分になる。体感できる読書というか。この書き方でホラーだったら、普通の10倍怖く、恋愛ものなら普通の10倍ドキドキするんじゃないでしょうか。
 三つ目は、小さい頃の、よかったなーな思い出も色々散りばめられていて、そこは「銀の匙」を思い出させる。
 四つ目は、表現がいちいち奇妙で面白いし、作者の支配力がはんぱない。結婚したいと思ってる人のことを「配偶者としての法的資格希望者」と書いた人がかつていたでしょうか。そこを「奇をてらいすぎ」とみるか「面白い」と見るかは分かれ道ですね。あと、蚊帳を「やわらかい檻」傘を「にこごりたまってしまった花火」除草業者を「草ごろし人」重病人は「死病者」といちいち比喩が重い。全体のトーンを暗くしたいみたいで、あちこち細かいところにまで作者の支配力が及んでいる。粘着質な感じでそらおそろしい。(こういうのは日本語圏にいる人でしか体験できないから、面白がったらいいんじゃないかと思うけれども。

 内容は、小さい頃親を亡くしたこと、お手伝いさんのせいでもう一人の親も、家も、庭も、奪われたみたいになっちゃったこと、家を出て貧しかったこと、などが書いてあり、全体的に暗くて恨み節っぽいです。でも、話者の視点は現在過去未来をいきつ戻りつするので、超他人事という感じ。あの時こういう道もあったのだけれども・・・みたいな記述がそこここにある。「選択肢はあったけど、こういう状況では仕方なかった」という諦めともとれるし、「こういう道を進んで、いまこうだけど、まあいっか」というさばさばした達観ともとれる。(道も色々、解釈も色々、まるでサンゴみたいに、ということらしいです)

 そんなこんなでいまだかつてない読書体験(体感?)ができるので、いいけど、万人にはおすすめできなくて残念です。(ちょっと字数オーバーしました。すみません。)
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