古書肆 新月堂[16]
2006 10/17 12:10
佐々宝砂

こーっそり復活。


「北寿老仙をいたむ」 与謝蕪村

君あしたにさりぬゆふべのこゝろ千々に
何ぞはるかなる  
君をおもふて岡のべにゆきつ遊ぶ
をかのべ何ぞかくかなしき   
蒲公たんぽぽの黄になづなのしろう咲きたる
見る人ぞなき  
雉子きぎすのあるかひたなきになくきけ
友ありき河をへだてゝすみにき
へげのけぶりのはとうちちれば西吹風にしふくかぜ
はげしくて小竹原 をざさはらすげはら
のがるべきかたぞなき   
友ありき河をへだてゝすみにきけふは
ほろゝともなかぬ   
君あしたにさりぬゆふべのこゝろ千々に
何ぞはるかなる  
わがいをのあみだ仏ともし火もものせず
はなもまいらせずすごすごとたたずめる今宵は
ことにたうとき  
                      釈蕪村百拝書

#常に私のパソコンにいらっしゃる文書(最初はたぶん新聞の切り抜きから書き写した)
#蕪村30歳の作(1746年)。「春風馬堤曲」と並ぶ蕪村の実験的前衛作品。
#明治の新体詩を彷彿とさせる文語自由律詩の体裁は、
#漢詩の和訳の体裁からきているらしい。


***

「一本のガランス」村山槐多

ためらふな、恥ぢるな
まつすぐにゆけ
汝のガランスのチユーブをとつて
汝のパレツトに直角に突き出し
まつすぐにしぼれ
そのガランスをまつすぐに塗れ
生のみに活々と塗れ
一本のガランスをつくせよ
空もガランスに塗れ
木もガランスに描け
草もガランスにかけ
魔羅をもガランスにて描き奉れ
神をもガランスにて描き奉れ
ためらふな、恥ぢるな
まっすぐにゆけ
汝の貧乏を
一本のガランスにて塗りかくせ。

(『槐多のうたへる』より)
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