2014 01/06 12:41
佐々宝砂
私は夢に登場しない。ただ俯瞰している。
いつかわからない時代のどこかわからない国。
その女は両手の欠損した男女の双子と暮らしている。女の髪は黒くて長い。黒髪の人間は少ない。女は仕事を探して街に出る。街でガラス工芸職人と出会い、弟子になる。職人はサディスティックで、女が仕事に失敗すると、女の足首の片方をきつく縛って天井から吊るす。足を引きずって女は自宅に帰る。両手欠損の双子たちがリンゴを食べながら子豚とチャールストンの歌についてしゃべっている。女は眠って夢を見る。
夢の中で女は美しい森を歩く。うっとりしているところに女の顔見知りがたくさんやってきて森や花畑を踏み荒らす。女が怒って彼らを追い出す、と森は瞬く間に枯れた。女が悲しんでいるとどこからか声が聞こえる。「誰も追い出さないでいれば森は枯れない」…女はいったん追い出した顔見知りたちを探しあてて森に招待する。招待された彼らは森に住み着き、次々とタヌキそっくりの子孫を作ってどんどん増殖する。森の木々は枯れない。しかし女の居場所はもう森になかった。
森を出た女は廃墟と化した遊園地にたどりつく。そこには両手欠損の双子がいた。三人は遊園地をさまよい歩く。どこからか聴こえる音楽をたどってゆく、とそこは極彩色のペンキを塗りたくったトイレだった。トイレの中からは音楽だけでなく声が聴こえる。ドアをノックする、と「あけないでくれ。あんたたちにいうことがあるんだ、このトイレの隣の個室をみろ」…三人は隣の個室をあける。そこにはテレビがあり音楽が流れていた。『リンゴントウ』だ。…リンゴントウが終わると聴いたことのない曲がはじまった。双子たちが強烈に興奮している。「これだよ!」「にたいいちだよ!」「2対1だよ!」女はなんのことだかわからない。歌の歌詞は子豚とチャールストンについてだが有名な五匹の子豚の歌ではない。
場面かわってガラス工芸職人の店。真っ赤なトヨタ2000GTが停まっていた。色は綺麗だがよく見ればボロボロでライトやサイドミラーは割れているし内装もあちこち破れている。乗っていたのは、メガネをかけた黒髪の男と異様な雰囲気の少年(実は少年ではなくふたなり)。男はガラス工芸職人と話をしている。ふたなりはガラス工芸を見ている。
ガラス工芸職人だけが未来を察している。「にたいいち」とは彼ら五人のことなのだ。