2007 10/01 11:39
佐々宝砂
私はどうやら中学校か高校の生徒らしい。校舎の四階を走っている。逃げている。あたりは暗くて、包帯を巻いたやつや青ざめたゾンビみたいなやつがのっそり徘徊している。触られたらおしまいだ。逃げ方にはルールがあって、校舎の廊下をはしからはしへ走りきると、それではじめて階下に降りることができる。それ以外の降り方をするとやつら(ゾンビなど)に見つかってしまう。それで私は一生懸命走るのだけれど、空気がねっとり重くてなかなか進まない。それでも追いかけられているわけではない(つまり怖いものに追いかけられるたぐいの夢ではない)。たとえゆっくりでもルールに則った逃げ方をすればやつらには見つからない。とはいえ怖い。怖い怖いと思いながらなんとか一階までたどり着き、校舎を出た。
と思ったら、そこはまだビルの内部だった。ビルは内側から見てもものすごく巨大で、ビルの内部にまた建物が建っている。校舎はそうした建物のひとつだったらしい。人工池のようなものもある。そうかと思うと道端(廊下?)に本でいっぱいの本棚があったりする。人も大勢歩いている。人工的な照明の他に明かりはない。ヘンなところはあるが、地下街のような街並みにも見える。イタリアンレストランと書いてあるドアを開けたら、ラザーニャを四種類もふるまわれた。ソースが違うんだから全部食えという。それぞれ一人前以上ありそうでとても食えないなあ、と断ろうとして店主の顔を見たら人間じゃなかった(じゃあなんだったかと訊かれても困る)。
こりゃまずいと思って店を飛び出た。よくよく見たら、あたりを歩いているのは全然人間ではなかった。しかしなかになんとなく人間のように思える女性がいたのであとをついていった。彼女が古めかしい教室のドアのような引き戸を開けると、そこには確かに人間と思える人たちが何人かいた。部屋の奥には僧侶のような格好をした男達が坐っていた。一応みんな人間にみえるのでほっとした。さっきの女性がこっちを向いて、ここは安全だから大丈夫よと言った。でも気をつけなきゃならないし、狩りにも出かけなければ。
狩り?
そう、窓から見て御覧。青い丸いものが飛んでくるから念を送りなさい。よくわからないままに、手のひらを青いものに向けて「ハッ」と気合いをこめてみた。ビリビリ痺れる気配があった。青いものは窓を通り抜けてこっちにやってきて、私の足もとでくたっとなった。さーて行きたかないけど出かけましょうと言われて部屋を出たら、そこらじゅう青いものだらけだ。青いものに念を送って、くたっとなったのをスーパーの袋に詰める。しばらく狩りをして袋がいっぱいになったので部屋に戻った。
僧侶の数が増えていて、いやに不気味な読経をしている。しかも僧侶の全員が私を睨みつけている。すごーくいやな雰囲気だ。しばらくしたらガラッと引き戸が開き、長身細身で不健康そうな「かっこいいバンパイア」みたいな男性が部屋に入ってきた。コーヒー色のロングコートを着ている。漆黒ではないところが微妙に渋くてかっこいい。秋里さん、と言いながらさっきの女性が駆け寄ったところをみると仲間、それもリーダー格なのだろうと思うが、なんとなく様子がおかしい。自分が入ってきた引き戸を閉めようとしない。女性が閉めようとすると閉めるなと言う。さらには僧侶の中の偉そうなのとぼそぼそ話しあっては私をちらちら見る。彼の様子がおかしいことに僧侶以外の全員が警戒しはじめた。彼が何かに取り憑かれているかもしれないと考えているようだ。
彼がいきなりこっちを正面から見て、私の両手をとり、信じるか?と訊いた。他の面々は私を見て「やめとけ」という顔をした。どうしてかわからないけど私は、信じる、と答えた。いい答だ、と彼が笑ったと思ったとたん、僧侶たちが私に襲いかかった。服をはぎ取られ耳を切り落とされ手も足も切断され、痛みはない、意識も飛ばない、まるで他人のように分解される私の耳元で彼が囁いた。
おまえを名づける。グール。
視界が溶暗した。私は戸板のようなものに乗せられて運ばれている。行き先は地下だ。バラバラになった私の肉体はゆっくりと融合しつつあった。でも確実に前の肉体とは違う。よぶんなものがある。私は男になった。それはわかった。では私はグールになったのか。それはわからなかった。地下に到着して板から下りた。
そこは広間で、みるからに不健康そうだが、一応人間のように思える人々がたくさんいた。おっさんがひとり私を気遣って、ボーズ、ラーメン食うか?と言った。うん、と答えて、ラーメンを食べた。味は記憶にないのだが、ものすごくうまいような気がして、ありがとうありがとうと何度も言った。ボーズどうやってここに来た?と訊かれた。秋里さんに、おとうさんに名づけてもらった・・・と答えた。答えながら気がついた。あのひとは私のおとうさんになってしまったんだ。それ以外の関係にはなりえないんだ。
喪失感がずーんと襲ってきた。目が醒めた。
#「秋里さん」のイメージの元は秋里光彦名義で小説を書く高原英理と思われる。じゃあ私と一緒に狩りに出かけた女性は佐藤弓生さんかw