2007 03/23 09:14
Six
無飯無宿の街
それは近い過去から見た近未来
わたしたちは相変わらず忘年会にも行くし
サラリーマンの仕事は夕方頃終わる
国道の上に架かる陸橋を走って渡れば
区役所と図書館と保健所とスポーツジム
お役所の人はなんとなく無愛想で
会社の人はなんとなく強引で
雑誌では新しい漫画の連載が始まった
そんな近未来
忘年会の後の二次会を「用事があるから」と断り
本当は用事なんか無いのだけど
わたしは駅まで急ぐ
部屋には恋人が待っている
後ろには追っ手があり
「用事があるから」と嘘をついたからか
怖い顔をして追いかけてくる
市役所のサービス時間が夜10時まで延長された
そう、わたしは市役所に用事があるのだから
急いで行かなければならない
嘘の口実を一つ見つけて満足し
でも一体何の用事だろう
追っ手を振り返り
市役所に駆け込むと
そこには女たちの列
これがニュースで言ってたアレか
女たちは服を脱ぎ
1ヶ月の胎児の入ったビニル袋を受け取ると
ずらりと並んだ診察台に横になる
保健所の医師が次々に
ビニル袋の中から胎児を取り出し
女の脚の間からそろりと入れて
番号を登録する
少子化対策として国が打ち出した大胆かつ強引な政策
どんな胎内でも育つ胎児を人工的に作り
子供を持ちたい女の胎内に植え付ける
女たちには出産から育児に至るまで経済的な支援が得られ
全ての公共サービスにおいて親子で優遇される
のだそうだ
わたしもいつのまにか裸になり
彼女らと同じように胎児の袋を持って診察台に横たわる
そうそうこの用事があったから
二次会を断ったのよ、ごめんなさいね
これからわたしは全てにおいて優遇される存在になるのだ
「終わりましたよお帰りください」
となんとなく無愛想な声で言われ
ふうん、これが妊婦の腹か
と自分の下腹部を撫でる
部屋には恋人ではなく
死んだ父が犬と一緒にドアーの外で待っていた
ただいま、わたし、妊婦になりました
父は「そうか。お手伝いさんがいるだろう?」と言ったので
2人ほどよこしてもらうことにした
優遇されてるんだなあ
この政策って本当に近未来ぽい
スパ!で新しい連載が始まった
「無飯無宿」というそのマンガは
裸のバービー人形たちが
あられもない挑発的なポーズで乱痴気騒ぎをしている様子を
写真に撮ってコマに並べた
爆笑政府批判ギャグマンガなのだそうだ
妊婦の政策も批判するかしら
それとも早々に連載を終了させられてしまうかしら
連載第一回目では
バービーはケンと腰の部分にセロテープを巻かれ
結合のポーズを取って微笑んでいた