400字コラムあるいは情景描写道場[4]
2007 02/11 00:14
ぽえむ君

冬の小川(情景描写)

冬の小川に橋の上からそっと小石を投げ入れてみる。
どぶんという鈍い音とともに、水面に白い波紋が広がり、
それは沈めた無音の響きでもあった。水が冷たいのだろうか、
その揺れはどことなく固かった。
その余韻に浸る間もなく、水底からプクプクと小さい泡が
浮かび上がり、やがては消え、全てを忘れたかのように時は
停止する。遠くでは鳥の羽音が世界を重く包み、鳴き声を
挙げながら世界の裏側へと消えていった。
橋の上で一人立ち尽くす自分は、どこか寂しい孤独な存在に
見えた。川に映った自分の顔に向かって、また小石を落とす。
顔が一瞬にして壊れ、再び水は幾重もの円を視界に創り出す。
その後、穏やかな波紋は破れた自分の姿をまたつなぎ合わせ、
思いがけず、自分を探している自分の姿が見える。
波紋は水の中だけではなく、水の上にも広がり、空に連なり、
冷たく厳しい風が自分の頬を通り抜けてゆく。
冬の小川は、今という時の全てを自分に語りかけている。

(400字)
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