小詩集【レトロな猛毒】side.B
千波 一也




一、漆黒


かりそめをながく着て
寝所のすみに
けがれを
灯して

目をつぶるから
ほこりがつもる
目だけを頼れば
いしにつまずく


なぞるだけでは
かどが立つ、


わかつためには
わすれるためには
えがいて消して
久遠の、



燃える陽も燃えた月も
ひとをつれては
燃やされて
ゆく

雨が
ひたすらに
顔を隠すわけは
かばうべき布のため


一枚のための一枚として
さくらの御名は
舞い降りて、
散る

土へとかえりゆく途が
ひとつの樹なら
枯葉のかげも
あたたかい


塗り込むすべは白のまま
うがつうつつに
渦巻くしるべ、
漆黒をさす




二、篝火


鈴のねむりを風はまもり


ときは
ときさえ
だまして過ぎて
いたずらに揺れて、
きまぐれに泣いて、

鳴らされている
はかない鏡


雨を飲み干すことで
おぼえ続けてきたものを
ほのおがゆるすはずもない

たやすいことほど
むずかしいものなら
ひとつも為しえず果ててしまう



野原に舟を浮かべたら
たじろぐ弓矢に
さかずきを

こおれる川に月夜を沈めて
戸惑うけものを
かんむりに



髪は
髪からうまれて
もっとも髪をうとむ爪

それは、呼び続ける罠


罪なればこそ暗闇は満ちて
やがては笑みに
晴れ間が集う
あやしくも


したがうあかりを
まずは目に

ふさがぬうちなら
耳にも手にも
口先にも




三、結晶


輝いていたとき、を
かぞえることで
くすみますか
くすくす、



泥にまみれた足もとに
わらう石ころ
紡がれる、
そら

届かないそらだから
甘えていたい、
背中は
青く


おぼえてゆくのは
忘れてしまう音ばかり

つばさも雪も
夕焼けも
朝露も
いつもいつも綺麗です、

失うことは優しい波間に
うずもれてなお、
冷たく醒めて

憂いのすみから古巣はかけます


こころあたりを引き裂くたびに
たとえば虹に恋いこがれ、
たやすく染まる橋です
今朝も

凛として、
刺されることを厭う針
夜はまだまだ月のものです


いざなううたは誰がため
行方もまぎれて
ここは遙かに

遙かに、こぼれて




四、春秋


隙間をあやすように
いたみのたぐいも
たぐり寄せる、
ゆび

からくりかも知れない、
そんなたとえのむなしさに
あらがうことを捨てたとしたら
だれかの日記を
風はめくるだろうか


通うこと、
ただそれだけが季節のしるし

あそびの裾はめぐる水

誘われてさらわれて
濡らされて
漂わせ


いやしはいつも静かにくずれる
ゆるやかにちぎれる、
約束のとき

果実のための果実はどこに


もてあそばれる鉄を
ささえる皮膚は
あまりに脆く
涙から、
なみだから遠い国は
見つからない
それでいい


弔いははじめから
枯れてしまうなかに在るのだろう

見渡せば、
よくよくながれて
すべてはすべてを待ち
焦がれている




五、笹舟


折り目もただしくつゆにのせ
負われ、
終われぬ
いのりをはこべ


いずれの岸辺がふるさとか

一途なさわぎに
まみれて
むやみ、
それゆえ波間は
あかるく
くらく、
砕けるいのちは
ひたすらに
あお、

いつか奏でた
うつくしい響きの
いつまでもなつかしい、あお


かえり着きながらも
すべり落ちることを
降りしきる、三日月


みちをもとめることだけが
みちではないような、
昔がきこえる
かぜの庭

ささやきはつめたい


飾られたすえの飾りではなく
ただまっすぐに
願いにまわれ
くるくる、



こまやかに鳴るきびしさに
覚めて、
冷めても
いのりをはこべ

さなかの、清流






自由詩 小詩集【レトロな猛毒】side.B Copyright 千波 一也 2007-01-06 14:14:17
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