散歩道
夕凪ここあ

「あ」と声に出そうとして
うまく発音できなかったそんな目覚め
冬はもうすぐ終わるというのに
まだ春は土の中であたたかな夢を見ている
喉が掠れて泣いているみたいだ
裏返って仕方ない。
空はなんにも遮るものがない蒼
ひとつ呼吸を整えると溜め息は白く
空気に溶けていく不安定な形で
知らない振りをして
あなたと散歩道に出れば
少しは気分が晴れて心地良い
それは手のひらの温度、とか
何気なく合わせてくれる歩くスピード、とか
小さく聴こえる呼吸の音、で
胸の奥でかすかな音をたてて落ち着く
ひとりきりの散歩道は
思い出ばかりが渦巻いて悲しい
そんなことばかりではないはずなのに
思い出という文字で括られるそれはいつも悲しい
あなたの手を不安という力で触れると
優しさで握り返してくれる
あなたの瞼の裏には
何か寂しさに似たものが眠っている
「あ」がうまく発音できないまま
何でもない真似事をして
あなたの温もりにそのうち忘れていく悪い夢

頭上で一筋の飛行機雲が空を分断していく
裸のままの木の枝に彩りを抱いた蕾が
眠りから覚めるのを今か今かと待っている
散歩道で


自由詩 散歩道 Copyright 夕凪ここあ 2007-01-05 20:29:50
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