妻とひと日を・・・・・
生田 稔

「妻と一日(ひとひ)を」 批評子

書を整理植木刈り込み春うらら妻と一日を過ごしたりけり

山の湯の朝七月も末静かに妻と出立を待つ


夜明けより降り始む雨一日を知り人と四人福井へ来て

低き山霧立ちのぼり一面の青田を見つつ過ぎてゆく里

濡れ青葉そば処なるあやだ屋に昼食時の越前の街

若狭湾見下ろす道をひた走り帰路の車の中4人の気持ち

山青く水清らかな越前に佐々木小次郎生誕の寺

雨の日の谷間の村に湧く赤谷名水というものに会う

山を下り霧の間に琵琶湖見ゆわれら湖国にたどりつきたり

玄関の入りたるところ妻の生く花かわゆらし盛夏燃ゆる日

半年絵を習いてむらむらとして妻の姿を描きにけり

絵といい詩歌というそは神(テオ)顕(フアニア)なりと美学の書には論ぜり

一瞬の一着に全てを賭け赤いシャツの走者微笑む

青空に蝉鳴きわたり風の吹く坂本のさか立秋の日

夕陽さし孤舟漂い近江富士家路をたどる車の窓

葉桜に黄ばの混じりて風が吹く疎水の端にやすみけり

大木に鴉一羽鳴きにけり大津京址九月朔日

秋雨のしのつく宵の雨音と男孫誕生のニュースをきく

飯焦げる匂いつたいく夕暮れの窓を放てど風は吹かずも

秋の夕しのぶもぢずり我妻は遠き源家の子孫にあり

なにごともなき世望めど一遍のフィクションならめ末の期の世よ

店の名のひびきもよくて二人してまた立ち寄りしうどん川福

神を信じて疑わぬ妻ととも三十年の奉仕生活

冬浅きあしたに降れる淡雪の積もれるごときモデルを描く(クロッキー)

降り立てば人影もなき旭川今は樹氷の大雪山か

吹雪にも負けぬ体を持ちし頃友と歩きし氷の街を

雨の日に拾穂庵きてぜんざいを秋の小鳥の来きて鳴きけり

春のきて雪が融ければまた来きて庭の絵をおば描きたきものよ

鶺鴒(せきれい)の庭に漫歩す格好を面白いとてともに目でおう

漬物を買い夕飯はみりん干たらこ白米ホッカホカ

家にあらば昼の疲れのいでしゆえ軽きいびきに妻はい眠る

遠くから小鳥さざめき雲多き空を眺むば澄める風そよ

薄暗く雨降りの歩道しとしとと路面打つ雫一つ二つ

風鈴を吊るし鳴るを待つ秋風の一陣吹けばキタカタと音

冬苺野菊と蓼を摘みつつも妻と行きけり夕暮れの路

稲荷ずし缶ビールささやかなり良き食事じゃと神いつも言いたまふ

家出ずば曇空にはあれど瓜形に月がかかりており候

キリストも神ですら人を捨てるは難しきかなああ難しき

歌になす何事もなき昼のベンチに座り山を見む

山二ついや三つあり空は曇り風そよと吹く師走の駅に

なぜかしら歌集出せず金もなくわが歌々は痛々しくあり

しきり雨降る土曜日の公子と来た博物館

夕刻の薄暮の市外灯り明滅し食事する

枯れ葦が高くさえぎり見えぬ湖空青くして雲漂えり

色づきし葉のちらほらと残る木の絵をかきたしと朝湖に来て

静かなりヘリの爆音湖のもに響きて朝の光さす

琵琶湖には水泳場数々あり新唐崎は冬の静けさ

人知れず労苦して一日がすぐ夜の寝床さわやか主の祈り

カツどん屋ともに食事をとりし日に髪をほむれば微笑める妻

目が醒めて朝のしじまの冷たさにショパンの曲をつつしみて聴く

野鴨5羽連れだちてゆく夕陽は沈み静かなる湖の面に


短歌 妻とひと日を・・・・・ Copyright 生田 稔 2007-01-05 10:11:16
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